ライフ

最強のナポリタン 再現するコツは「焼き」「置き」「油」

郷愁のナポリタン

 日本のパスタ料理に燦然と輝くのが「ナポリタン」だ。アルデンテを一切無視し、主な味付けはケチャップという繊細さを欠くパスタが、無性に食べたくなるときがある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が、郷愁のナポリタンのコツを伝授する。

 * * *
 やわらかく茹でられたスパゲッティを、とろりとしたケチャップで香ばしく炒め上げる――。そんなナポリタンが、近年再評価されている。それも新橋の「ポンヌフ」、大手町の「リトル小岩井」、有楽町の「ジャポネ」、神保町の「さぼうる」など昔ながらの専門店や喫茶店で提供される、個人店のナポリタンが、だ。

 人類史上最高とも言われる現代日本の食環境では過去の「うまいもの」は上書きされ続ける。言い換えるなら、ふだん私たちが口にするメニューは、たいてい“上位互換”がきく状態なのだ。和食、洋食、中華を問わず、世の多くのメニューは、よりいい素材で、より技術のある作り手がていねいに作れば、よりおいしくなる。

 もちろんパスタやスパゲッティも例外ではない。ミートソース、カルボナーラ、グラタンなどたいていのメニューは、研鑽を積んだ新しい味のほうがおいしく感じられる。麺のクオリティ、ゆで・まぜの技術、そしてソースなどの味つけ。現代の飲食店で提供されるメニューのレベルは高い。記憶の味=最高の味にはなりにくい時代でもある。

 ところがナポリタンは違う。最高の材料と技術が「最高のナポリタン」になるとは限らない。理屈を郷愁が凌駕するのも「ナポリタン」の魅力である。

 定説では、ナポリタンが誕生したのは戦後まもなく、横浜の「ホテルニューグランド」だと言われている。その作り方をひもとくと「「ニューグランド」のナポリタンは、7割方茹でたパスタを冷まし、5~6時間置いてからさっと湯通しする」(『ニッポン定番メニュー事始め』著・澁川祐子/彩流社)というもの。ゆで置き麺を再び温めて、ソースと合わせる……。近年「やわらかいうどん」として認知を拡大する伊勢うどんにも似た麺ゆで手法で、日本人の舌に合うようナポリタンの食感はカスタマイズされた。

 その後、ナポリタンは喫茶店や洋食店に入っていく。昭和30年創業の「さぼうる」をはじめ、昭和40年代には「ジャポネ」「ポンヌフ」「リトル小岩井」「ジャポネ」といったナポリタンの“名店”が創業した。そうしてナポリタンは家庭や学校給食へと広がっていった。確たるレシピが手渡されるのではなく、口伝が広まり、各作り手が少しずつ工夫を重ね、ナポリタンの「郷愁」は形成されていった。

 ではその「郷愁」にたどりつくためのキーはなにか。ずばり「焼き」「置き」「油」である。それぞれの加減は無限にあるが、この3要素の組み合わせでナポリタンにまつわる課題はほぼ解決される。既存の飲食店で「郷愁」に巡り会えず、自宅の台所でフライパンと対峙するときの一助にしていただければ幸いである。

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン