1.「焼き」の加減
記憶にあるナポリタンの色が明るい赤色ではなくやや深い赤褐色なら、まずは強火で焦がしを入れたい。ケチャップや玉ねぎに含まれる糖分のカラメル化による苦味が味に深みを与え、メイラード反応(褐変反応)で豊かな風味が増幅する。甘ったるさが気になる方にもケチャップや玉ねぎに対するきっちりとした焼き入れはおすすめ。「焼き」の加減によって、ナポリタンの味わいは「お子様向け」から「大人向け」までいかようにも変化する。
2.ゆで「置き」麺
数多くのメニューを扱う喫茶店や洋食店において、特に昼時などは注文時にいちいち麺をゆでてはいられない。とりわけナポリタンの勃興期である高度成長期、まだ「アルデンテ」向けのスパゲッティは一般にはあまり出回っていなかった。うどんやそばですらゆで置き麺が当たり前だったコシ不要期に、大衆メニューとして地位を確立したナポリタンに当然ながらコシという概念はない。調理の際にお湯でほぐすか、ゆで上げ直後に油をまわしかけてから置いておくかは流儀がわかれる。
3.「油」の種類と後先
「郷愁」の最後の決め手は「油」だ。ナポリタンに使う油は大別すると、サラダ油、オリーブ油、バターの3種類にわかれる。もっとも一般的なのはサラダ油のみで炒め上げる手法だが、最後に火を止めてからバターをひとかけら加えると味が一段深くなる。炒め油をオリーブ油にすればさわやかさがプラスされる。周囲に聞いたところ、最初からバターで炒め始めるというこってり猛者もいた。
「郷愁」を覚える味は人の数だけある。文字通り「お袋の味噌汁」から、カレーやそば・うどん、ハンバーガーまで、投影する対象はさまざまだ。だが他の多くのメニューとの最大の違いを挙げると、ナポリタンには理詰めでの味わいを突き詰めた”究極”が存在しない。無限の「うまさ」を備えるナポリタンは、やはり最強の「郷愁」メニューに違いない。