〈転落から約1年。“敗戦処理”も順調に進み始めると南原氏は復活へ向けて本格的に動き出す。知人の会社の一角に居候する形で、少ない資本金で始められる人材派遣業を開始。高齢化を見据え、医療・介護に力を入れた人材派遣業が成功し、事業は軌道に乗った。さらにM&Aの仲介、旅館の再建、レンタカー事業、腕時計の輸入販売に飲食業と、幅広く事業を拡大。社員数もグループ全体で3000人を超えた。〉
復活できたのは、下がった生活水準に順応できたことが大きいと思います。いろんな経営者を見てきましたが、欲が強い人は逆境に弱い。洋服や飲食費が多額の固定費になっていると、カネがない時には借りてまでその生活を維持しようとしてしまい、首が回らなくなる。そんな人が何人もいました。
かつては高級車を乗り回していた私ですが、それはビジネス上の“演出”であり、今ではコンビニのサンドウィッチで満足ですし、スーツは上下1万円のセール品で十分。だからといって借金が悪いとはこれっぽっちも思っていません。
これは西武グループの創始者である堤康次郎さんの話ですが、年商1億円を達成したとアピールしてきた若者に「1億円稼ぐのは大したことはない。1億円の借金をしていれば大したもんだ」と返したといいます。ビジネスの観点でいえば、1億円を貸してもらえるほどの信用を築いている人間のほうが優秀なのです。
新たなビジネスを成功させるにはお金が要ります。私のように、短期間で会社を大きくしようとすればなおさら大勝負が必要になります。借金は自分の資産以上の力を発揮するための“テコ”といえるでしょう。
私は今も借金をしているし、経営者である限り、これからも借金と共に生きていきます。 失敗したらまたゼロから始めればいい。挑戦した結果、もう一度あの地獄に落ちてもいいとさえ思っています。ホームレスは辛かったので、せめて家だけは残しておきたいですが(笑い)。
撮影■江森康之
※週刊ポスト2015年5月29日号