「大きな音を聴き続け、耳の奥にある蝸牛(かぎゅう)の神経細胞が傷つき死んでしまうことで難聴が起きます。神経が受けた障害は、なかなか治らないため問題になっているんです。例えば鼓膜がダメージを受けたとき、鼓膜を再生する方法はありますが、死んだ神経細胞を再生させることは、今の医学ではできません。それがこの病気を心配しなくてはならない理由なのです」
受診するべきサインとして、まず音楽を聴いていた後に耳がほわんとしたり、耳鳴りなどは最初の兆候であり、危険信号だと大河原さんは話す。WHOによると、危険なレベルの音量は85㏈(デシベル)以上とされている。85㏈はガード下の騒音や車の騒音にあたる。身近なものでは、ドライヤーで100㏈、掃除機で75㏈に達する。
「車などの騒音は、まだ広域から入って来る騒音ですが、ヘッドホンやイヤホンは耳の中にダイレクトで音が入り、しかもそれが続いてしまうので、さらに問題なのです。患者さんには、音楽を聴いた時に耳に痛みを感じるのは体が発するアラームですから、痛く感じる音量は避けて楽しんでくださいと説明しています。音量を下げることと、連続1時間半を超えないこと。音楽を1時間ほど楽しんだら、5~10分は外して耳を休ませる。このふたつが大きなポイントです」
工場勤務など騒音の中で仕事をする人の耳の老化は早いと言われるが、ヘッドホンやイヤホンの多用も耳の老化を早めると大河原さんは指摘する。
「耳の聞こえの老化は平均50~60代から始まり、早い人は30代で始まるパターンも。通常、加齢により4000 Hz ~8000 Hzの高音部から聞こえが悪くなっていきますが、そこに重ねて大きな音による障害を受けることで、相乗的により悪化して難聴が早まってしまう危険があります」
使うヘッドホンやイヤホンの形状も関係してくるので、耳に負担のかからないタイプを選びたい。
「耳の奥まですっぽりと入る密着タイプは、ダイレクトに鼓膜に音がいくので音楽そのものをよく楽しめますが、音は空気の波ですからその分圧迫してしまう。それに比べ、半密着のセミオープンタイプは、いい意味でほどほどに音漏れしてくれます。ただし、音漏れはまた別の問題になってしまうので、やはり音量と時間を調整して聴くのがいいですね」
取るべき予防策について、大河原さんはこう語る。
「体調が悪いときは、神経細胞が障害を受けやすくなるので、適切な音量と時間を守って耳を休ませましょう。耳鳴りや耳の詰まりなどの兆候が少しでも感じられたら、早めに病院にかかってください。一度失った聴力は二度と回復しません。程度が軽い初期であれば、神経細胞がある程度はリカバリーするので、完全にだめになる前に手を打つことが大切です」