私は故障を求めていたので、あえて走行距離が一番多いのを買ったが、ここが盲点だった。世界一故障するマセラティが、11万kmも走れたということは、その個体は“当たり”だったのだ!
通常中古車は、走行距離が少ないほど故障の確率が低いものだが、マセラティのような特殊なクルマの場合、そうとは限らない。走行距離が少ないのは、単に故障が多すぎて走れなかっただけという可能性が高いのだ。
激安ガイシャの場合、このように、故障を待ち望むくらいの気分で買うと意外と壊れないという、逆説が成立しやすいようだ。
その後も懲りずに、78万円のランチアや45万円のプジョー、68万円のアルファロメオ、7万円のサーブなど、いろいろと激安ガイシャを買ったが、すべて一度も故障しなかった。こちらは故障を待ち望んでいたのだが……。
戦争では、真っ先に突撃する兵が意外と生き残り、ビクビク出て行くと一発で弾に当たると言われるが、激安ガイシャを買う際も、同じことが言えそうだ。
つまり、どんなに安くても、「掘り出し物かも」とは考えず、これは戦争だと思って突撃すると、意外とサバイバルが可能だ。その捨て身の姿勢に、美女もコロリと参ることだろう。
■清水草一:編集者を経て、フリーライターに。「自動車を明るく楽しく論じる」がモットーの53歳。現在、フェラーリ・458イタリア、BMW・335iカブリオレ、トヨタ・アクアを所有。日本文藝家協会会員。
※週刊ポスト2015年7月17・24日号