そして、去年の12月に薬事法が医薬品医療機器法に変わり、危険ドラッグの規制部分が強化された。「指定薬物と同等以上に精神毒性を有する蓋然性が高いものである疑いがある物品」も規制の対象とされ、検査命令、販売・広告の停止命令が出せるようになった。
その前から「検査命令」を出していたので実際の取り締まりが大きく変わったわけではないのだが、これで警察は「行き過ぎ」と指摘される心配なく動けるようになっただろう。おかげで、今年の4月にはもう残り2店舗を残すのみというところまで、危険ドラック販売店を潰すことができた。
なるほど、日本の警察もやる気になればできるじゃん。……いや、待て。いくら違法指定してもキリがない「いたちごっこ問題」はどこに行ったのか。「精神毒性を有する蓋然性が高いものである疑い」があれば取り締まれる、つまり警察官の現場判断で怪しいブツは片端から差し押さえることができる。だとしたら、眉間にしわを寄せていた専門家たちはなんだったんだ。化学構造の一部を変える云々の科学的な壁はどこへ行ったのか。
国民の声に押されて警察もその気になったから、法の微妙な部分も、科学の壁も、そんなものはいくらでも越えられたんだ、という話であったとしたら、それはヤバいと思うのである。誰がどう考えても危険ドラッグは壊滅させたほうがいいから問題にならなかっただけで、これだけスピーディーに問題解決をした権力のパワーには、警戒すべきじゃないかと言いたくなる。
読売新聞の見出しに「残るはネット」とあったように、多くのニュースは、実店舗は壊滅させることができたが、インターネットでの闇販売はまだ行われており、特に海外のサーバーを使ったサイトは削除要請に応じないので大きな課題だ、と報じていた。
が、これだって、国民の声に押されて警察がその気になれば、児童ポルノ拡散の防止策として使っている「ブロッキング」をやればいいだけではないか。プロバイダーなどがアクセス先への接続を強制遮断する技術を使い、ネット販売のほとんども潰せるはず。ちなみに、安倍政権は現在、著作権侵害サイトへの接続遮断に「ブロッキング」の利用を検討しはじめている。児童ポルノや危険ドラッグには例外的に使ってもいい技術だとしても、例外を増やすと、なんでもありにつながりかねない。権力の歯止めとしての法の力が弱まったらヤバい。
権力は犯罪から国民を守ってもくれるが、国民を思うままにできる物理的強制力でもある。危険ドラッグをわずか一年で「壊滅」させたパワーには、頼もしさと危うさの両面がある。