国内

危険ドラッグ店一掃は朗報でも「1年で壊滅」の素早さは異様

 今月、「危険ドラッグ」の販売店が全国で一掃されたというニュースが流れた。昨夏に「脱法ハーブ」を「危険ドラッグ」に改称してからわずか1年のこと。その摘発の速さに拍手を送りたくなる一方、きな臭いひっかかりも感じる。コラムニストのオバタカズユキ氏が語る。

 * * *
 唐突である。捜査当局や捕まえられる側、あるいは薬物の専門家や危ない世界のマニアの間では当然の帰結だったのかもしれないが、平凡な一国民としては突然ニュースの矢が飛んできて驚いた。ひとまず、7月9日から10日にかけて流された、主な記事の見出しを列挙してみよう。

・危険ドラッグ、最後の販売店摘発…残るはネット-読売新聞-9日
・危険ドラッグ店、ゼロに 販売容疑で最後の2店舗摘発-朝日新聞-10日‎
・危険ドラッグ:国内最後2店舗が閉鎖 経営者ら逮捕-毎日新聞-10日
・危険ドラッグの街頭店舗壊滅=最後の2店が実質閉鎖-時事通信-10日
・危険ドラッグ店「全国で消滅」、東京・歌舞伎町で最後の摘発-TBS-9日
・危険ドラッグ販売店“ゼロ”に 歌舞伎町2店摘発-テレビ朝日-10日
・危険ドラッグ販売店「全国で壊滅」-NHK-10日

 日経や産経も同じニュースを流していたが、見出しが長ったらしいので省略した。伝えている内容はどの報道機関もほぼ一緒。要は、歌舞伎町に2店だけ残っていた販売店の経営者らが逮捕され、危険ドラッグを街頭で売る店はついに国内ゼロとなりましたよ、という報道である。

 危険ドラッグはどう考えてみても存在自体が悪だから、喜ぶべきニュースなのだろう。ただ、誤解を恐れずに言えば、「こんなに素早く壊滅できるって、ちょっと異様じゃない?」と気味の悪さを感じた。

 なぜなら、警察庁と厚生労働省がそれまでの「脱法ハーブ」「脱法ドラック」の呼称を、「危険ドラッグ」に改めると発表し、話題となったのは去年の7月22日なのだ。それから「壊滅」までたった1年しか経っていない。

 去年の6月に東京・池袋の繁華街で危険ドラッグを吸った男が車を暴走運転、歩行者7人をはねて死傷させた事件以来、連日、この厄介な薬物についての報道がなされていた。私も当サイトにこの問題に関するコラムを寄せたのだが、当時はこんなふうに説明されていた。

<ご存知の通り、「危険ドラッグ」は化学構造の一部を変えた新しいブツが容易につくられるため、いくら違法指定してもキリがない厄介な薬物だ。また、覚せい剤や大麻と違い、規制物質の有無を確かめる簡易検査キットがなく、現行犯逮捕ができないともいわれている>

 自分のコラムからの引用だが、あの頃は新聞でもテレビでも、みんなそう言っていたのである。どんなにがんばって違法指定しても化学構造をすぐに変えて新しいブツを売りに出すからいたちごっこになってしまう。酒気帯びのように専用機で検出できるわけもなく、実に困った問題なのだ、と専門家は誰しもが眉間にしわを寄せていた。

 そして、一日に何人もの逮捕者のニュースが流れ続けた。当初はヘンだと感じていた「危険ドラッグ」というネーミングセンスもすぐ気にならなくなり、いったいこの薬物問題はどこまで大きくなるんだと途方もない気持ちになっていた。

 ところが、だ。今回の報道によれば、去年の8月が問題のピークで、そこから先は順調に解決へ向かっていたようなのである。NHKのニュースは次のように説明している。

<去年8月、幻覚などの健康被害を引き起こす成分が含まれていないか検査し、その結果が出るまで販売を停止するよう求める「検査命令」が全国で相次いで行われました。その結果、厚生労働省によりますと、危険ドラッグを販売する店舗は去年3月の時点では全国で215店に上っていましたが、去年9月には3分の1近くにあたる78店に減少しました>

 そう言われてみれば、去年の秋以降は、あまり危険ドラッグがらみのニュースを見なくなっていたような気がする。NHKはこう説明を続ける。

<さらに薬事法が医薬品医療機器法に改正されたうえ、法律で規制された危険ドラッグでなくても同じような毒性があるなどと疑われる場合、全国一律で販売を停止できるようになりました。その結果、ことし1月に7店舗にまで減り、さらに4月には今回摘発された東京・新宿歌舞伎町の2つの店舗だけになっていました>

 ていねいに新聞を読むなりしていれば掴めていた情報なのだろうが、まず8月の段階で「検査命令」なる手法を使って取り締まりを強化していたのだ。よく調べてみると、この段階では取り締まりの「行き過ぎ」を指摘する声もあったようだ。だが、当時はとにかく危険ドラッグの蔓延に対する嫌悪感や恐怖心が国民的に高まっていたから、「警察はなにをもたもたしているんだ」という空気のほうが強かった。「行き過ぎ」問題が議論されていた記憶はない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン