インフレで日本の車の価格が300万円から360万円に値上がりすると仮定しましょう。同じ車が米国では値上がりせずに3万ドルのままならば、日本で買うより米国で買ったほうが得になってしまいますよね? だから1ドル=100円のままでは釣り合いが取れません。そこで日米の車の値段が一緒になるように、1ドル=120円まで為替が安くなり、インフレ分の調整を行なうのです。
ただし、「量的緩和でインフレになる理由」は、実ははっきりしていません。インフレとは本来、景気が良くなりすぎて人手不足になる→賃金を大幅に上げないと人が雇えなくなる→生産コストが上昇して物価が上がらざるを得ない、という流れのことで、単に価格が上がることではありません。しかし量的緩和は、日銀が日本の国債を大量に買うだけなので、そんなインフレ効果はありません。
実は「量的緩和をすると株が上がる、通貨が安くなる」というのは、市場の投資家たちが経験的に信じ込んでいるだけで、理論的な裏付けはありません。ただ、そう信じる人たちが株を買って円を売るから、信じたことの自己実現が起きます。
つまりアベノミクスの政策効果というよりは、投資家が「円安になる」と信じれば、円安になるのです。
●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年7月31日号