絶対的なタフネスを目標に定めた新商品を、ではどうやって市場へアピールしていけばいいのか。
「時はちょうど携帯電話ブームの頃で、若者の関心はまったく腕時計にありませんでした。広告を打っても振り向いてもらえない。これまでとは全く違うプロモーション方法を探っていくしか、道はありませんでした」
2005年頃から同社はユニークな方法に着手し始めた。憧れのキーマンやリーダーにGショックの魅力を語ってもらうという方法だ。音楽ライブ、アートイベント、セレクトショップなどとコラボして、Gショックファンのミュージシャン、スポーツ選手、アーティストといった媒介者を通じて若者と対話を重ねていった。新規取引が飛躍的に増えた。店頭に並んだ商品を、対話の相手である若者が買っていった。新鮮な手応えがあった。
「この手法を2008年頃から欧米、アジア、中東と世界十数都市で展開していきました。『SHOCK THE WORLD TOUR』というプロモーションイベントには基本の型があります。前半は開発ストーリーや機能を伝えるカンファレンス。後半はライブやパーティーを通してエモーショナルにGショックの魅力を表現していくのです」
「タフネス」という機能の上に、各国の土地柄と響きあう若者カルチャーを重ねていく。そんなプロモーションが大成功し、世界各地で出荷数が伸びていった。だが、周到に形作られたこのプロモーションは、いったい誰によって、どのように生まれてきたのだろう?
「イベントの中身は自分たちで企画して練り上げていきました。また、Gショックのファンではない有名人にお金を払って出演していただくことは、決してありません」
Gショックを本当に愛しているコアなファンが、次のファンを作っていくという「ファン作りマーケティング」が世界を舞台に展開されていたのだ。ヒップホップのエミネム。レディー・ガガ。ネイマール。俳優、アーティストらが語る「間接的話法」が世界の若者たちの心を揺さぶった。
※SAPIO2015年9月号