改めて春画を間近で見てみると、その精緻さに驚きます。細かい家具などの屋敷の様子や着物などが江戸時代を代表する浮世絵師の最高の技術と画材で描かれているので、当時の生活文化が非常によくわかります。春画は男女の交わりばかりに目が行きがちですが、主な目的は大勢で笑いながら鑑賞するためのもので、女性の裸のみに焦点を当てて男性が一人でコソコソ観るポルノグラフィとは異なります。
絵だけでなく、後ろの書き入れの文字を読んでも、ユニークなやりとりが理解でき、春画が「笑い絵」と呼ばれていた理由がよくわかります。実際、大英博物館の展覧会では来場者の約6割が女性で、そのユーモア性に惹かれたそうです。
今回、ほとんど世に出なかった個人所蔵の作品も展示されます。展示に難色を示していた所蔵者のところに私も伺い交渉にあたりました。「高名な浮世絵師は、総じて春画を描いていました。20年以上前から日本でも無修整で出版されていますし、アートである春画を堂々と見られないのはおかしい。まったく心配いりません」とお話ししたところ、ご快諾をいただけました。
春画展では、葛飾北斎や喜多川歌麿といったスター絵師の作品を中心に計120点を前期と後期に分け、図版を順次入れ替えながら多くの作品をご覧いただけるようにします。
また図録のほか、春画が描かれたふんどしなどのグッズ販売も検討中です。永青文庫での春画展開催が突破口となって、春画が日本でも堂々と美術として認められるようになれば、と切望しております。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2015年8月21・28日号