西郷はインタビュー中、森繁を親しみと敬意を込めて「おやじ」と呼んでいた。

「芝居については何も教えてくれません。見て覚えるしかない。それでも同じ舞台の板に立っておやじの背中から客席を感じることができることは凄いことだと思いながら演じてきました。

 おやじが素晴らしいのは、芝居に対する姿勢。引っ込みが上手でね。『役者はとにかく品がなきゃダメだ。引っ込まないでしつこく出続けることはするな』と。手(拍手)が来るまで引っ込まない方もいるんですよ。でも、やることをやったらサッと引っ込んで、その後で観客から『いいね』と思われるくらいがいいということです。

 それから、黙っている時が素敵なんです。セリフとセリフの間のちょっとした間合いが絶妙でした。普通は計ったように演じるものですが、おやじは計算しているように見えない。ほとんど息を吸わずに吐いていたんじゃないですかね。間合いで息を吐くと、憂いが出るんです。

 僕に一つだけ言ってくれたのは、『輝はカミソリの刃のような芝居をするよな。それはいいけど、いつまでもそれだけじゃダメだ。ポキッと折れてしまう。そうじゃなくて、しなやかな柳のような、それでいて温かい心を出せるような、そういう芝居をやれるようにならないと』ということでした。そういえば、森繁久彌という役者は、そういう芝居をしているんですよね。

『音楽をやってよかったな』と言われたこともあります。『役者しかやらなかった人間とはリズムが違うんだ』と。そこは自分では分からないんですが」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年8月21・28日号

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