◆なぜか議論が盛り上がらない
しかし、資金の半分を株式で運用する、外国の債券を合わせれば、65%もの配分を日本国債よりもリスクの高い資産で運用するというのは、まったく違う考え方です。当然、大きく損をする可能性が出てきます。
ただ、利回りがより一層高くなる可能性もあります。つまり一長一短なのです。株式での運用比率を大幅に高めるのは、一つの考え方としては「あり」です。
ただし、問題は「リスクを高めて、運用利回りを高めたい」という人は賛成ですが、「利回りを高めなくて良いから、安全最優先で、損する可能性が小さい運用にしてほしい」という人は反対します。人によって意見が大きく分かれる運用なのです。
不思議なことに、GPIFが資金の多くを株式で運用すると発表しても、そのときは大きな話題になって不安の声も報道されましたが、その後は、それほど議論が高まらないままです。もっと大論争になってもおかしくない問題なのに、まったく話題にならなくなりました。
年金運用で大きな損失を出せば、消費税を引き上げて穴埋めをするか、年金をカットせざるを得ません。消費税引き上げは大騒ぎになるのに、こちらが議論にならないのは、なぜか。
「実際に損失が出て、初めて国民はショックを受けるから」「現在株価が上がっているので、なんとなく儲かっているような気がするから」という二つの理由で議論にならないのだと思います。
GPIFが発表しているデータでも、6分の1の確率で10%以上の損失、すなわち13兆円以上の損失が出る可能性があると示されています。かなり大きなリスクです。ただ、もちろん10兆円以上利益が出る可能性も同様にあります。
この事実を踏まえた上で、国民全体で、「リスクを取ってもいいから、運用益を上げよう」というコンセンサスができているなら、この変更はとても良いことです。
しかし、国民の多くが、大きな損失が出てから、「そんなことは知らなかった。リスクを取って利益を目指していたつもりはなかった」と思うのであれば、絶対にこのような運用はするべきではないのです。
下手をすると、暴落が起きたときに「もう株式投資は絶対に嫌だ。公的年金では株式運用しない。国債に戻るか、運用自体を止めてしまえ」という議論になります。これは最悪です。なぜなら、暴落したときこそがチャンスで、そのときこそ、株式投資をするべきだからです。
実際、リーマンショックでGPIFは約10兆円損を出しましたが、その後の回復で取り戻しました。そして、ここ数年の株価上昇で、それを上回る利益を出しています。
ですから、多くを株式などの資産でリスクを取って運用するのであれば、国民全体が、その覚悟を持った上でやる必要があるのです。
●小幡績(おばた・せき):1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年9月18日号