国内

外務省が全額出資も編集部は独立している外交専門誌「外交」

 知られざる業界紙・専門誌の世界あなたに…。今回は「国内唯一の外交・国際問題専門誌」を紹介します。

『外交』
創刊:2010年
発行:奇数月末日
部数:4500部
読者層:外交にかかわる政府関係者、大学の先生や学生、メーカー、商社などのビジネスマン
定価:880円
購入方法:大手書店にて販売。または都市出版株式会社に直接注文

 発行元が外務省、と聞くと、あれから13年もの歳月が流れたというのに、記者の頭の中では「田中眞紀子」「鈴木宗男」「伏魔殿」「閣下」という文字に自動変換される。

「何でも聞いてください」と、感じのいい笑顔を向ける中村起一郎編集長(44才)にそれを告げると、「うふふ。そうですか」と笑う。「でも、あれが今の外務省かというと、ちょっと違いますね」とも。

 同誌の製作費は外務省が全額出資しているが、広報誌ではない。外務省職員はあくまでオブザーバーとして編集委員会に出席するのみで、基本的に口出しはせず、毎号のテーマや寄稿者は独立した編集委員会が決めているという。

 ところで、私たちの生活と、外交はどんなかかわりがあるのか。そもそも外交とは何か? 国同士の社交のようなもの? かねてからの疑問をぶつけると。

「う~ん、社交と国交は、似ているといえば似てますが、大きく違う点もあります。たとえばテレビニュースで、中国の不審船が日本の領海に無断で入る―そんなことが頻発すれば、政府間で話し合いますよね。話し合いのテーブルにつくためには、常日頃から相手国とおつきあいをして、相手国の事情や、影響力のある人が誰か。その人の性格はどうか、知らないといけません。そういう意味では“社交”ですが、外交は国の利益を背負ってすること。なれ合わず、緊張感のある関係を続ける必要があります」と言う。

 今年は戦後70年。これまで日本は日米安全保障条約によって、アメリカとの関係を考えていればよかったが、アジアの国々が成長するなどして、大きく事情が変わってきている。

「日本が苦手とする、さまざまな国との八方美人的な外交も必要なのです」

 また、人それぞれ個性があるように、国家ごとに国民性がある。その価値観が異なった者同士がお金の貸し借りをしたりすると、面倒なことが起きる。

「ここ数年、鎮火と再然を繰り返しているギリシャ危機がそれですね」と中村さん。

 同誌の『ギリシャ危機の見通しを曇らせた「ユーロ圏」という蜃気楼』では、お金を借りたギリシャと、貸したドイツを次のように記す。

〈…債務という言葉はドイツ語では『罪』…であり、それが示すように、金を借りること自体が『悪』で、いわんや借りた金を返済しない人間は地獄に行くというような論理感もあり得るだろう。これに対して経済学の考え方は、債務を負った個人、もしくは組織は、どの時点でも、「債務を返すか、返さないか」について、経済的な判断を行うことができる〉

 同誌の『観光で生きる国―ギリシャの本質』によると〈ギリシャの政治家は選挙のたびに公務員を増やした。…人口に占める公務員の数が働ける人の四分の一に達していたときもあった〉とある。

 どう考えてもギリシャのほうが旗色が悪いのだが、「国際的には貸し手のドイツに対して批判的な意見が強くなってきています。返せない相手に、貸したほうも悪いというワケですね」。

 そう語る中村さんが、長く同誌の編纂をして、改めて知ったことがある。それは「日本は意外とちゃんとやっている」ということ。

「その一例がアフガニスタンです。2001年から始まった紛争で、一時は国が無茶苦茶になりましたが、日本からお金も人も送って援助しています。

 たとえば武装解除。兵士だった人から武器を取り上げる代わりに、農業を教えて、普通に暮らせるようにしています」

 しかし、こうした活動を10年、20年続けても、また紛争が起これば、元の木阿弥。ゼロになってしまうこともある。

「それでも、たとえば国内に、ひどく貧しい治安の悪い地域があれば、他の町に住んでいても枕を高くして寝られないじゃないですか。

 国際貢献は、日本が平和であるためにも、欠かせない活動なんです」

 それなのに外交に興味をもつ女性は少なく、主な読者層は60代以上の男性だそう。「なぜ?」と聞くと「う~ん」。編集長は腕組みしたまま、しばらく宙を見つめていた。

(取材・文/野原広子)

※女性セブン2015年9月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
山上徹也被告が語った「安倍首相への思い」とは
「深く考えないようにしていた」山上徹也被告が「安倍元首相を支持」していた理由…法廷で語られた「政治スタンスと本音」【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
不同意性交と住居侵入の疑いでカンボジア国籍の土木作業員、パット・トラ容疑者(24)が逮捕された(写真はサンプルです)
《クローゼットに潜んで面識ない50代女性に…》不同意性交で逮捕されたカンボジア人の同僚が語る「7人で暮らしていたけど彼だけ彼女がいなかった」【東京・あきる野】
NEWSポストセブン
TikTokをはじめとしたSNSで生まれた「横揺れダンス」が流行中(TikTokより/右の写真はサンプルです)
「『外でやるな』と怒ったらマンションでドタバタ…」“横揺れダンス”ブームに小学校教員と保護者が本音《ピチピチパンツで飛び跳ねる》
NEWSポストセブン
台湾有事を巡る高市早苗首相の発言から緊張感が高まり続けている(時事通信フォト)
《台湾有事のゼロ日目は始まっているのか》米・シンクタンクが想定する3つの“開戦シナリオ” 防衛族の与党重鎮は「中国側に開戦の口実を与えてしまった」と憂慮
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン