●職人や風土の描き方
頑固でこだわりを持っているはずのベテラン塩田職人の仕事を、肉体も技能も鍛えず準備もしていない若者が思いつきのように継ぐ、といった斬新な展開に驚かされた。NHKでは珍しい、「職人仕事」の扱い方だった。
メインテーマの「塗師」「パティシエ」といった専門業もしかり。仕事の描き方が表層的。たとえば半年間ドラマを見て「輪島塗」の歴史の奥深さやそこにしかない難しさ、沈金や蒔絵といった技巧など全体像はほとんど見えず。
能登という土地・風土についても断片的に映るばかりで、特産品も独特の生活文化も地理も詳細には立ち上がってこなかった。
●主人公に対する共感ポイントが不足
主人公の成長と変化についての描写は、いわば朝ドラの定番路線。それを存分に堪能できたドラマの代表格が『カーネーション』だったとすれば、今回の『まれ』はその対極。主人公の葛藤が伝わってこない。共感するポイントが少なくて感情移入が難しい。
努力、失敗、悩み、喜びといったプロセスに関して細かな心理描写をはしょり、いきなり「成功しました」と結果を提示してみたり、突如数年後に飛躍したり。視聴者は置き去り。
何と言っても、希の顔が象徴的。ドラマのスタート時と現在とを見比べて、ほとんど同じに見える。「変化」「成熟」を感じない驚き。それほど「主人公の成長物語」が実感しにくかった。
……と、もしかしたら『まれ』がこんな風につっこみ所満載だったからこそ、「一言いいたい」人が続出したのだろう。普段ネットとの親和性が高いとは言えない中高年の視聴者をも巻き込んで、連日掲示板に感想が書き込まれ、多くの人が熱心に読んだのも、『まれ』のおかげ。
幅広い年齢層に、ドラマに対するネット上の批評的習慣が根を下ろした。これがもし、体裁を整えた優等生ドラマだったら? こう盛り上がりはしなかったかも。
私はこれまでのコラムで「ドラマは社会を映す鏡」と書いてきた。『まれ』の最大の功績とは、ネットを介した市民参加型をドラマの領域にも広め、ドラマ批評に多くの一般市民を動員したことだったのかもしれない。