芸能

是枝裕和氏 なぜ「後に残された人」の悲しみだけを撮るのか

是枝裕和監督

 日本映画の危機が叫ばれている。シネコン向けの商業映画ばかりが世に溢れ、作家性に富む映画は製作どころか、上映元のミニシアターの休館も相次ぐ。そうした大きな波に抗う数少ない映画監督、是枝裕和氏(53)にノンフィクション作家の佐野眞一氏が迫った。

 * * *
 私が是枝作品で最も好きな「誰も知らない」は、1988年に起きた巣鴨子供置き去り事件(※注1)を題材にした映画である。

【(※注1)父親失踪後、母が4人の子供を育児放棄。母親の蒸発後、当時14歳の長男がマンションで3人の妹の面倒を見ていたが、三女を死なせてしまう。その後、大家の通報で事件が発覚】

 マスコミはこの事件に殺到し、同居相手を次々取り替えて4人の子供を置き去りにした母親を、「オニ母」「冷血40女の情欲」などと面白おかしく書き立てた。その一方、フェミニストたちは、私生児差別などおよそお門違いな批判をした。

 だが、この映画には「オニ母」を指弾する視点もなければ、私生児を擁護しようという運動臭もない。描かれているのは、“後に残された人”の深い悲しみだけである。

──あれは事件が起きたときから、興味があったんですか。

「はい。実際の事件では柳楽優弥君演じる長男が、死んだ妹をスーツケースに入れて、特急レッドアロー号で秩父の山中に埋めに行くんです。当時、僕は西武池袋線沿線の清瀬という、レッドアロー号など止まらない小さな町に住んでいました。

 長男はあの列車にいつか妹を乗せたいと思っていた。その思いが、いつもその列車を見送っていた人間として心情的によくわかった気がしたんです。でも、警察は秩父の山に埋めるための証拠隠滅としか捉えなかった。そこへの違和感が作品作りの核にありました」

──映画では父親の一人が働いていたという羽田の空き地に妹の死体を埋めるんですが、そのとき韓国人の女友達が一緒に行くのはなぜですか。

「あれは韓国の子をキャスティングしようと思っていたわけではないんです。あの男の子と同じ目をした女の子を探そうと思っただけなんです」

──ああ、そうか。柳楽優弥と同じ目をした。

 柳楽は、同映画でカンヌの最優秀男優賞を史上最年少で受賞している。

──なぜ彼を起用したんですか。

「目ですね。大人を拒絶している目です」

 確かに柳楽の目は生涯に一度できるかできないかの目である。

関連キーワード

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン