もう一つ感心したのは、子供らがいつも食べている即席麺類の食後の扱いである。食事が終わると、彼らはカップ容器を思い思いベランダの鉢にする。彼らの生活のせつなさは、プラスチック容器に土を入れ苗が植えられたカットが無言のうちに語っている。

 是枝作品に共通するのは、生き別れ、死に別れを別にして、取り残された人間の物語である。最新作の「海街diary」にしても、一見ホームドラマに見えながら、自分らを捨てた父親や母親を許せるか許せないかで揺れる物語である。是枝はなぜ、このテーマにこだわるのか。彼の出自を聞いて、私なりに納得できた。

 是枝は東京の生まれだが、ルーツは鹿児島である。曾祖父の代に鹿児島から奄美大島に移り、祖父は奄美で生まれて台湾に渡った。父は生まれた台湾で召集され、戦地でシベリアに抑留され、敗戦から3年後に初めて本土の土を踏んだ。是枝はいうなれば、日本近代棄民の末裔なのである。

──これから作りたい作品の構想をお話しいただけますか。

「二つあります。一つは甘粕正彦(※注2)が理事長だった時代の満映をやりたい。もう一つは沖縄からブラジルに移民し、第二次世界大戦後も日本の敗戦を受け入れなかった“勝ち組”(※注3)の話をやりたいですね。でも、2つやるとすれば10年はかかると思います」

【(※注2)1891―1945。日本の陸軍軍人。関東大震災の混乱に乗じ、大杉栄らを殺害したとされ服役。その後、満州に渡り、満州映画協会理事長を務める】

【(※注3)終戦後も、日本の“敗戦”を認めようとしなかった日系移民たちのこと。情報源が限られ、現地語の読み書きができなかったことなどが背景にある】

 満映は日本で食いつめた連中が、一旗揚げることを夢見て大挙移民した満州(現在の中国東北部)に生まれた国策映画会社である。満映にしてもブラジルの“勝ち組”にしても、日本から棄民された自分を否定したい情動が発生の原動力となっている。

 10年かけて満州とブラジルをテーマにした映画を製作する。それでこそ“棄民”の末裔の本懐というものだろう。(文中敬称略)

※SAPIO2015年10月号

関連キーワード

トピックス

山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン