シェンゲン協定が作られた80~90年代には、現在のような難民問題は想定されていなかった。
当時から、難民が来たらどう受け入れるか、どれくらい許容するかを規定しておけば、いまのような混乱はなかったはずだ。EUを作ったときから失敗は始まっていたのである。
そもそもEU28か国は、経済状況も違えば文化も違う。それを一つにまとめようということ自体、無理があったのだ。ギリシャの経済危機はその矛盾を顕在化させた。今回の難民問題でも、規定がなかったことで各国の「人道意識」に左右されることになった。
一時の感情に流された「みんなで受け入れよう」という姿勢は、将来に大きな禍根を残すことになる。1991年、マーガレット・サッチャー女史に会ったとき、彼女はこう言った。
「EUは失敗します。手をつなぎ合って競争するなんて、子供の遊びです。EUは文化的にも違う国家だらけです。その上、かつての植民地の人々が入ってきたら一体どうなりますか。シェンゲン協定を作ってしまったからには、必ず混乱が起きます」
※SAPIO2015年11月号