安倍首相が放ったアベノミクスの3本の矢のうち、金融緩和と公共事業(財政出動)はいわばカンフル剤だ。政府が音頭を取る“岸色”の政策といえるだろう。一方、本格的な経済成長→所得上昇に結びつけるためには、その効果がある間に、3本目の矢である規制緩和・自由化という“池田色”の改革を思い切って進めなければならない。第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏が語る。
「必要なのは規制緩和です。たとえば企業が賃金を上げにくいのは労働規制が強く、正社員が必要以上に守られているからという面があります。解雇ルールが明確でなく、“一度雇ったら定年まで雇い続ける”という慣行が定着していて、企業側に“できれば正社員は雇いたくない”“正社員の給料を上げたら業績が悪くなった時に下げられない”といった意識がはたらく。
そうした規制の改革に踏み込めば、利益をあげた企業は給料を上げる、そうした企業に人が集まる、というダイナミズムが生まれます。ただ、聞こえが悪いのでなかなか議論が進まない。
エネルギー政策ではコストが安い石炭火力発電などをもっと増やして電気料金を安くすべきなのに、政府は環境対策でつくらせないように規制強化をはかっている。これもやめた方がいい。また、農業など日本の一次産業は大規模化や株式会社の農地取得の規制を撤廃して自由化をすれば成長産業にできる」
こうした大胆な改革について、安倍首相も当初は「私のドリルで岩盤規制に穴を空ける」と電力自由化や農協改革、医療改革に乗り出したが、すべて中途半端になった。電力業界、農協、医師会という自民党支持基盤の抵抗が強かったからだ。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号