“一言の願い”を募った「はがきの名文コンクール」が、今年初めて開催された。メールやSNSの興隆とともに失われつつある“はがきを文化”を後世に残そうと、日本郵政などの協力を得て始まったコンクールである。
去る13日(火)、その受賞者発表会が東京都内で開催され、大賞(賞金100万円)をはじめとする受賞作品が発表された。応募数は、選考委員(吉本ばなな、齋藤孝、堺屋太一の3氏)や実行委員会の予想を大きく上回ったという約4万通。下は5歳から上は100歳以上までが、はがきに願いを込めた。
約4万通の応募のなかから大賞に輝いたのは山口峯三(みねぞう)さん(90歳、埼玉県)の作品。3年前に亡くなった妻へ、日頃の暮らしぶりを交えながら思いをつづった。「前略。どうだい、ソッチ。もう馴れたかい。コッチは万事に不馴れで、閉口しているよ」と始まる、テンポのよい軽快な文章。それだけにいっそう、後に続く「君のつくる味噌汁(おみおつけ)が飲みてえよ」が沁みる(全文はHP上に掲載)。
90歳とは思えぬ足腰で元気にスピーチを終えた山口さんに、受賞の感想を聞いた。
「長いこと生きていると、こういうことがあるんですね。最初は何かの間違いかと思いましたよ。自分では名文だなんて思っていませんから。妻も驚いていると思う。90年の間に、もちろん色々なことがありましたが、私にとっては、妻を亡くしたことが最も悲しい体験でした」
実は山口さん、若い頃から作家志望で、仕事のかたわら投稿を重ね、作品が商業誌に掲載されたこともあるという。書く意欲はいまだ衰えておらず、現在も執筆中と明かしてくれた。
「今の趣味は2~3時間の散歩です。書くためにも健康であらねばなりません」。ちなみに賞金100万円については「はずみすぎ」と感じており、一部は寄附を考えているという。はがきの文章と同じく明朗かつ個性豊かな90歳の受賞に、会場は大いに沸いた。
選考委員の堺屋太一氏は選評で「未来的な願いよりも、身の丈にあった願いが多かった」と述べた。個人の願いには、やはり世相が反映されるのだろう。佳作にも、家族に関する願いをつづった作品が多く見られる。実行委員会によると最も応募が多かったのは60代。一方で、10代の応募も2000通を超えており、ハガキ文化が根強く続いていることを知らしめる結果となった。コンクールは来年も開催されるという。
伝える媒体によって、伝える内容も変わってくる。たまには、はがきでしか伝えられない思いをつづってみるのもいいかもしれない。
■撮影:戸澤裕司