アクセントを取っ払うという簡単な言語パフォーマンスで、いきなり相手より優位なマウントポジションを獲得する。そうした心理が、平板語の流行につながったと思う。
その行き着いた先が、現在の「そもそも」現象ではないか。大体が「そもそも」という言葉自体、例にあげた長屋の隠居や大家など物識りが、無学な与太郎や熊サンに講釈を垂れる、まさに上から目線の偉そうな言葉である。
それをキャリアも浅いサラリーマンや若手芸人が、悠長に「そもそも(“そ”にアクセント)、流行のパターンはですね」と偉そうに前フリしたら「誰が決めたんや!」と突っこまれるところだ。
相手より優位に立ちたい。しかしマジで議論すると、ボロが出るかもしれない。ということで、無意識に多くの日本人が、会話の冒頭に早口で「そもそも」とフラットに発音しだしたのだ。
自分の言語スキル、ひいては思考能力に自信を持てないものが、会話の場において、苦労しないで勝つために案出されたのが「そもそも」だ。
物事の由来を説明する際、冒頭に置かれる「そもそも」は、いまでは逆に説明をシャットアウトする言葉として使われる。「そもそも、あの人って、もう終わってるじゃないですか」という具合に。俺が「そもそも」って言ったんだから、オマエら余計なこと訊くなよ、というわけだ。
「そもそも」を口にする人間には、ご用心。中身も自信もない癖に、自分を実際よりも偉そうに見せたいというインチキ野郎の証拠だから。
※SAPIO2015年11月号