近年、嫌~な日本語がやたらと使われている。コラムニストの亀和田武氏は、そのひとつとして「そもそも」を挙げる。いったいなぜなのか。
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最近「そもそも」という言葉を、よく耳にしませんか。これまでは「そもそも」と頭にアクセントが付いていたのだが、近ごろ使われる「そもそも」はフラットに発音される。いわゆる平板語だ。
この二十年あまり、多くの言葉が日常会話で平板化し、私も少しのことでは驚かなくなった。しかしアクセントを欠いた「そもそも」を初めて聞いたときは、一瞬ギョッとなった。
「そもそも日本の社会って、そういうふうに出来てるわけじゃないですか」
いきなり「そもそも」って早口で言われても、こちらは困惑するばかりだ。そう、いま流行中の「そもそも」は、かつて町内の御隠居が「そもそも茶の湯というものはだな」と、物事の成り立ちを熊サンにじっくり説いて聞かせた類のものでなく、ささっと何の意味も込めず、会話の冒頭に発せられる。
私の経験では、当初、平板語は固有名詞の領域で発生した。たとえばエリック・クラプトンという名ギタリストはそれまで「クラプトン」(“ラ”にアクセント)と呼ばれていたが、あるときから「クラプトン」と平板に発音されるようになった。
発音がフラットになると、固有名詞の意味自体もニュートラル化され、本来の意味や色合いまで変化する。私見では、クラプトン(“ラ”にアクセント)と尊敬の念を込めて語られていた人名を、フラットかつ無表情に発することで、(別にクラプトンといわれても、有難がったりしてない俺様)をアピールしているようにみえる。