いま、秋田県から日本酒革命が起ころうとしている。一躍注目を集める5蔵が集まり、次世代を見据えた酒造りの研究会「ネクスト5」を立ち上げたのだ。その挑戦に、ノンフィクション作家の一志治夫氏が迫る。(前編:文中敬称略)
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乳酸が醸すまろやかな旨味とほんのりとした酸味、それでいて、舌にしつこく残らぬ香りの爽やかさ。かつてこんな鮮烈な飲み口の日本酒が存在しただろうか──。
2010年冬、秋田・新政(あらまさ)酒造の日本酒『No.6』が発表されると、飲食業界に衝撃が走った。数年経ったいまも、東京の有名飲食店や左党の間では『新政』の酒をいかに入手するかが話題となり続けている。「1人2本まで」などと販売制限を設けている酒販店も少なくない。
『新政』の大躍進に牽引されるかのように、『ゆきの美人』『一白水成(いっぱくすいせい)』『山本』『春霞』を送り出す秋田の4蔵も注目を集め、引く手あまたの状況が続いている。この5蔵が集まり、次世代を見据えた酒造りの研究会「ネクスト5」を立ち上げたのは2010年のことだ。
『山本』『白瀑(しらたき)』の蔵元である山本友文(45)がいう。
「我々が目指しているのは、お互いを高め合い、徹底した品質本位を貫くこと。技術的にわからないことがあれば、5人の誰かしらが答えてくれる。一方でライバルでもあり、私は遅れをとらないようにメンバーの新しい酒は必ず飲んでいます。みんな、さらにブランド力を上げて日本酒の価値を高めたいと思っている」
5蔵が使う米や酵母はばらばらで味もそれぞれ異なるが、どの酒も綺麗な飲み口で旨く、食事に合う。代々続く老舗ながら、ここ10年ほどでまったく新しい方向性を打ち出してきたことも共通項だ。
先鞭をつけたのは『ゆきの美人』を手がけた小林忠彦(53)だ。小林はプログラミングの仕事を辞め、1987年に東京から実家の蔵に戻ってきた。それまでも酒造りの知識はそれなりにあったが、県内の醸造試験場にも通い技術を磨いた。小林が振り返る。
「当時は杜氏(とうじ)さんを使って冬の間に集中的に酒造りをするスタイルが一般的でした。でも私は自分で設計し、思った通りの酒を造りたかった。12年前に思い立ち、杜氏さんに辞めてもらって、試行錯誤で酒造りを始めたんです」