酒米の出来をチェックするために定期的に契約農家の水田に足を運ぶ佐藤祐輔氏


◆「生もと造り」「6号酵母」へのこだわり

 小林が新しい酒に挑戦している頃、『新政』の佐藤祐輔(40)も動き始めていた。佐藤は東京大学文学部卒業後、ジャーナリストとして活動していたが、日本酒の魅力に惹かれ家業を継ぐことを決意。2002年から広島の酒類総合研究所で学び、2007年に秋田に帰ってきた。

「当時、『新政』の主力である普通酒の売り上げは前年比5%減のペースで落ち続け、1975年のピーク時からは半減してました。このまま改革しなければ、蔵が潰れることは目に見えていた。ならば、戦ってやろうと思ったんです」(佐藤)

 佐藤は、燗酒などで重宝されていた普通酒を捨て、すべてを純米酒に切り替える大改革を断行する。杜氏や社員の大幅な若返りも図った。そんな中から新政酒造発祥の酵母である「きょうかい6号」を使った『No.6』は誕生した。

 佐藤の願いは、秋田を日本酒で活性化することだ。だからこそ「きょうかい6号」酵母と秋田産酒米だけを使った酒に固執する。

 佐藤は今年からすべての酒を生もと造りとした。江戸時代に考案された製法で、桶の中で米と麹、水を混ぜてすり潰す工程があるため、おそろしく手間がかかる。速醸を可能にする添加物を用いず自然の力を借りるため、時間も通常の倍以上必要だが、佐藤は譲らない。

 さらには、無農薬米化も目指す。

「最終的には『亀の尾』という江戸時代からある米を使って、100パーセント無農薬化したい。そうすると米の買い入れ代金が4倍ぐらいに跳ね上がるので、いまはまだ無理ですが……」(同前)

 佐藤は、秋田山中の限界集落で、そこの水と米を使って現地で究極の酒造りができないかと目論んでいる。酒蔵を中心に若者の雇用さえ生み出す村を創りたいという夢を抱いているのだ。(後編に続く)

撮影■今津聡子

※週刊ポスト2015年11月13日号

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