1989年といえば、民主化を求める学生らが多数犠牲となった天安門事件の年。西側各国は経済制裁に踏み切り、「中国は人権を蹂躙する野蛮な国」というイメージが世界に定着した。“先進国の仲間入り”を悲願とする習氏はじめ中国政府が決して触れてほしくない出来事であることを百も承知で、あえてその「暗黒の年」のワインを選んだことは意味深だ。
女王は晩餐会の席上、「今年は両国にとって非常に特別な年となる」と歓迎の意を表したが、「女王は習氏と会っている間、ほとんど笑顔を見せなかった」(同前)。
また晩餐会で習氏がスピーチした際、隣に座るアンドリュー王子が頬杖をつく姿も物議を醸した。
振り返れば、過去に英国を訪問した中国の指導者も「屈辱」を味わってきた。2005年に国賓として訪英した胡錦濤・国家主席も晩餐会では女王から「中国の動向はすべての人々の関心事」と、中国の人権問題を婉曲に指摘された。
昨年、李克強・首相が訪英した際には「女王に会えなければ訪英しない」と注文をつけたり、宮殿の「レッドカーペットが短かった」と苦情を言ったりするなど、その振る舞いが英王室側を呆れさせた。中国に詳しい宮崎正弘・拓殖大学客員教授が語る。
「英国の狙いは中国のカネ。英王室による歓待はその謝意ではあるが、信頼や敬意を抱く関係ではない。そうしたメッセージがエリザベス女王をはじめとした王族の振る舞いに込められていた」
カネでは品格や信頼は買えません──そんな女王の言葉が聞こえてきそうだ。
※週刊ポスト2015年11月20日号