谷崎&坂口の美女と野獣コンビが口にする〈性差〉の問題や、元犯罪者とどう関わるべきかなど、物語は答えの出ない問題を孕みながら第2、第3の事件へと進み、衝撃のラストを迎える。

 それにしても不思議なのは谷崎たちの名コンビぶりをユーモラスに描き、ミステリー音痴(?)時代の逸話を笑って披露する彼女が、なぜイヤミスの新星となり得たか、だ。

「根が関西人なんで、そう言われるとめっちゃ嬉しいんですけど、人間のイイ面はもう十分書かれているし、こっちでいいやって(笑い)。

 クリスチャンの私は、教会にも最近はあまり行けなくなったのですが、人殺しはもちろん、騙してても妬んでもいけないと聖書にも書いてあるのに、戒めにある愚かなことほど人間はやってしまう。そういう隠しても隠しきれない本性とか暗部を私自身覗いてみたいし、むしろ光を当てて書いていきたいんです」

 母性や友情など、美しきものが併せ持つ毒にも果敢に目を凝らす注目の作家は、どんな愚かさも書くことで受け入れ、サービス精神や芸域に関しても無尽の抽斗を感じさせる、自称「無意識」の侮れない人だった。

【著者プロフィール】秋吉理香子(あきよし・りかこ):大阪生まれ・神戸育ち。15歳の時、一家でロスに移り住み、高校卒業後帰国。早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、再び渡米し、ロヨラ・メリマウント大学院で映画・TV製作修士号取得。現地で映画製作や脚本等を手がける。2008年「雪の花」で第3回Yahoo!JAPAN文学賞を受賞し、翌年、初短編集『雪の花』を発表。2013年の初長編『暗黒女子』は大きな反響を呼び、『放課後に死者は戻る』も好評。現在は大阪在住。150cm、O型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2015年11月20日号

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