◆人間は愚かなことほどやってしまう

 実は屍姦の事実を報じる記事に最も驚いたのは当の真琴だ。〈誰が、あの死体を穢した?〉と謎の共犯者に怯えながらも内なる衝動に抗えず、真琴は剣道クラブの生徒に悪さを働いた少年が、再び気になってしまう。

 一方、〈都会の夜には危険があふれていると聞くが、郊外の夜の静けさも暴力的だ〉と思い詰める保奈美はベランダから双眼鏡を覗き、町の監視を始めた。ある時、大きな荷物を抱えた不審者がいると通報し、逆に警察から迷惑がられた彼女は、何と男の尾行を開始。 法もモラルも軽々と越える母の覚悟は危なっかしい限りだが、娘を授かった時、彼女は誓ったのだ。〈生まれるまでが神の領域なのであれば、生まれてからは母の領域なのだ〉〈無事にわが子を抱くことができたら、全身全霊をかけて愛し、守る〉と。

「これはもう私の実感で、どんなに努力しても授からないものは授からないし、どうか神様、バトンを私に下さいって。一方で医学の進歩で選択肢が増え、自由度が上がった割には、神の領域から人の領域への引き継ぎがうまくいってない感じもするんですね。

 不妊治療や延命治療をするしないが丸投げされてしまった分、かえって人は悩み、傷つきもする。特に人間の領域では母親が自分の子だけを守ることを許されたり、いいとも悪いとも言えないことだらけですから」

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