変形学生服が隆盛だった1980年代に卒ランという存在を記憶している人はほとんどいないのではないだろうか。約30年前から学生服を販売している「学生服のマスコ」(埼玉県)の益子淳一さんによれば、卒業のために特別な刺繍入り学ランを用意するようになったのは2000年代のはじめごろではないかという。
「警察の取り締まりが厳しくなって刺繍入り特攻服の注文が下火になったあと、短ランとボンタンの組み合わせに刺繍を入れる『卒ラン』の注文が入るようになりました。12~1月に注文のピークを迎え、納品は2月が多いです。全国から注文を受けていますが、九州や沖縄からの注文が多いです。短ランの背中に入れる刺繍は、尾崎豊の曲の歌詞や『憂国烈士』や『天下無敵』など四文字熟語の人気が高いですね。
注文の8割はネット経由で、来店されて打ち合わせの場合もメールでサンプル画像をやりとりして注文を確定しています。みなさん刺繍代を一番、心配されます。大きさによって刺繍の値段は変わるので、見積もりで確認してから注文できますから安心してください。それに、20年前なら50センチ大の絵柄の場合は刺繍代が職人による手仕事だったので10万円を超えましたが、今はコンピュータ入力による刺繍なので3~4万でおさまりますよ」
変形学生服や卒ランを準備するのは、いわゆる非行少年ばかりというイメージが強いかもしれない。だが、実際には素直で犯罪とは縁遠い印象の子どもが多いと前出の益子さんはいう。
「今では親が短ランを勧めても標準学生服を選ぶ子どもが多いなか、わざわざ変形学生服を選ぶ人は、いろんな服を着たいと考えている子です。昔も、いろんな服を着たいという人が変形学生服を買っていきました。きっと、彼らは他の子たちよりもオシャレなんだと思います。昔は学校の先生も変形学生服の取り締まりに熱心でしたが、変形学生服に結び付けられた社会的イメージは必ずしも正しくないからか、最近は細かいことは言わないようです」
記念日のために特別な服を準備し、思い出をつくって記念撮影する。スマホで撮った写真は友人と共有され、卒業の当事者以外からも「いいね」やハートマーク、スタンプなどをもらうのだろう。記念日が好きで、SNSで共感しあうのが常識となった現代だからこそ、「卒ラン」の輝きはまた増しているといえるのかもしれない。