往年のレジェンド選手たちが球界の問題をズバリと突く週刊ポストの短期連載。今回は「フォークの神様」と称される杉下茂氏が、いまのプロ野球界の投手のあり方について物申す。
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今の打者は小さくまとまった優等生選手が多く、投手にとっては対処しやすいのですが、一方の投手も問題あり。変化球に頼り過ぎです。投手にとって一番重要なことは今も昔も変わらず、ストレートのコントロールなんです。それも伸びのあるストレート。プロには打ちごろといわれる145キロであっても、バッターの手元で伸びれば必ず打ち取れます。
フォークのイメージが強いであろう私だって、基本はストレートでした。フォークを投げたのは川上(哲治)さん相手の時だけ。それも天知俊一監督からの命令だから仕方なく投げていただけです。今の投手は変化球を多投するため、どんどん手首の使い方が下手になってしまっています。
あとどの投手も上体だけで投げているのが気になる。大谷(翔平)も腕ばかり振っているので、ストレートにコントロールがない。稲尾(和久)に代表される昔の投手のように下半身も使って体全体で投げると、さらに凄い投手になると思うんですがねェ。松坂(大輔)も下半身でうまく投げていたのが、メジャーに行ったことで上体だけで投げるようになり、ヒジを壊してしまいました。
日本人投手は下半身を上手く使えるから世界に通用するのに、メジャーに行くと考えが変わってしまうのでしょうか。
腕力に頼れば日本人の体力では60球が限度です。これでは先発完投など不可能。下半身を使うから9回を投げられるし、終盤に球威を保てる。私たちの時代は6回以降のほうが球が速い投手ばかりでした。リリーフが失業するぐらい頑張ってもらいたいですね。
「伝家の宝刀」はここぞという時に出すから効果があるんです。しょっちゅう出していたら効果はありません。変化球を多投せず、常にストレートで三球三振を狙う。そんな野性味のある選手に出てきてもらいたいものです。
◆すぎした・しげる/1925年、東京府生まれ。中日、大毎で活躍。日本初の本格フォークボーラーとされ、「フォークの神様」と称される。
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号