SVBのマーケティングマネージャー、吉野桜子さん
ビール系飲料の出荷量は2014年まで10年連続で縮小しているが、そんな状況下でも若者に人気急上昇なのがクラフトビールだ。厳選された材料とこだわりの製法で少量生産される手作り系ビールを指す。販売額は307億円(2006年)から今年度は383億円へと25%拡大する見通し(大手以外の醸造所・富士経済調査)。熱視線を集めるのはなぜか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレポートする。今回訪れたのはキリンビールの子会社が運営するクラフトビールの店、スプリングバレーブルワリーだ。
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代官山駅から4分ほど歩くと、「SPRING VALLEY BREWERY(スプリングバレーブルワリー)東京」(以下SVB)が見えてくる。
店内に一歩踏み込むと、右手には仕込み釜、左手には大きなタンクが7本。釜の中では麦汁とお湯がとろりと混ざり合い、湯気をたてている。何という臨場感。まるで工場見学の感覚だ。
「まずは仕込みの様子がいきいきと伝わるようにと、入り口付近に釜とタンクをレイアウトしました」
と語るのはマーケティングマネージャーの吉野桜子さん(33)。SVBをゼロから企画立案してきた中心スタッフの一人だ。
「製造工程を“見える化”したくて、ガラス張りのタンクも特注で作りました。また、1階だけでなく2階の客席脇にもタンクが14本並んでいて、どの席に座られても製造風景が目に入ります」
その口調からは「工場での大量生産品ではない、ここでしか飲めない生まれたてのビールを生産過程から丸ごと味わってもらいたい」という意気込みが伝わってくる。
客席は215席。店舗面積の約2割を、製造設備が占めているユニークさ。実は、客席とビール製造設備がここまで一体化した空間は、吉野さんが見た限り、世界広しといえどもここしかないと言う。
SVBは、大手ビール企業の中で真っ先にクラフトビールのヤッホーブルーイングに出資したキリンが、今年春、東京と横浜に独自に開設したブルワリー(小規模ビール醸造所)併設のビアレストラン。オープンから10月末までの間、来場数は約18万人と当初目標を上回る勢い。
「世界各国から醸造家の方々も視察に訪れています」