国際情報

就職難や自殺 韓国の若者たちを苦しめる「ヘル朝鮮」の実像

若者たちの嘆息が聞こえてくる Reuters/AFLO

 ヘル朝鮮。不穏な響きを持つこの言葉が韓国の若者たちに急速に広がっている。超競争社会、就職難、自殺増加……。韓国の抱える病理は、若者たちの希望を奪い去ってしまったかのように思える。韓国在住ジャーナリスト・藤原修平氏によるレポートをお届けする。

 * * *
 11月14日の午後、ソウル旧市街中心部の旧王宮前に広がる光化門広場一帯で、大規模な反政府集会が開かれた。付近の地下鉄3駅が一時封鎖され、群衆と化した集会参加者の勢いを止めるべく、ありとあらゆる措置がとられた。

 韓国警察庁によれば、動員された機動隊員は2万名、投入されたバスは700台にのぼり、遮蔽壁を備えたトラック20台も出動したという。集会が始まって間もなく、今回の政治集会を主導した全国民主労働組合総連盟委員長による記者会見文の全文が群衆に向かって朗読されるなか、ある言葉が響き渡った。

「“ヘル朝鮮政府”の怠慢により若者たちは夢と希望、そして人生までも放棄せざるを得ない」

 ヘル朝鮮。地獄の朝鮮を意味する言葉だ。

 時を同じくして、光化門広場から北東に2kmほど離れた大学路一帯では「地獄の炎半島、ヘル朝鮮を転覆させる青年総決起集会」なるものが開かれていた。参加者である一人の青年は、「ヘル朝鮮にはつける薬がない」と手書きのプラカードを首にかける。

 ヘル朝鮮は、韓国の新流行語である。初出こそ定かでないが、ネットでの書き込みで最も古いものが2012年9月である。

 もともとは、今から数百年前の朝鮮時代をあげつらう意図のもとで使用されていた。たとえば、「高麗時代の平均寿命40歳、朝鮮時代の平均寿命25歳」や、「壬辰倭乱(日本名・文禄慶長の役)で20万の軍勢が攻めてきたら国が滅亡寸前にまでなった」という文脈に即して使われた。

 ところが2015年6月あたりから、朴槿恵政権に不満をもつ若者たちがそれまでのヘル朝鮮のイメージを現在の韓国社会に重ね合わせるようになった。これに韓国の全国紙、東亜日報は敏感に反応し、8月21日付で「ヘル朝鮮という言葉がこれから大流行するであろう」との予測をたてた。

 実際に大流行したのはそれから約一か月後。9月22日、韓国で運営されている英語版ネットメディアのコリア・エクスポゼが「韓国、汝の名はヘル朝鮮」(Korea, Thy Name is Hell Joseon)と題した記事を発信したのがきっかけだった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

トランプ米大統領と高市早苗首相(写真・左/Getty Images、右/時事通信フォト)
《トランプ大統領への仕草に賛否》高市首相、「媚びている」「恥ずかしい」と批判される米軍基地での“飛び跳ね” どう振る舞えば批判されなかったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
アメリカ・オハイオ州のクリーブランドで5歳の少女が意識不明の状態で発見された(被害者の母親のFacebook /オハイオ州の街並みはサンプルです)
【全米が震撼】「髪の毛を抜かれ、口や陰部に棒を突っ込まれた」5歳の少女の母親が訴えた9歳と10歳の加害者による残虐な犯行、少年司法に対しオンライン署名が広がる
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《新恋人発覚の安達祐実》沈黙の元夫・井戸田潤、現妻と「19歳娘」で3ショット…卒業式にも参加する“これからの家族の距離感”
NEWSポストセブン
キム・カーダシアン(45)(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストの元妻の下着ブランド》直毛、縮れ毛など12種類…“ヘア付きTバックショーツ”を発売し即完売 日本円にして6300円
NEWSポストセブン
2025年10月23日、盛岡市中心部にあらわれたクマ(岩手日報/共同通信イメージズ)
《千島列島の“白いヒグマ”に見える「熊の特異な生態」》「冬眠」と「交雑繁殖」で寒冷地にも急激な温暖化にも対応済み
NEWSポストセブン
中村雅俊が松田優作との思い出などを振り返る(撮影/塩原 洋)
《中村雅俊が語る“俺たちの時代”》松田優作との共演を振り返る「よく説教され、ライブに来ては『おまえ歌をやめろよ』と言われた」
週刊ポスト
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン
チャリティーバザーを訪問された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《4年会えていない姉への思いも?》佳子さま、8年前に小室眞子さんが着用した“お下がり”ワンピで登場 民族衣装のようなデザインにパールをプラスしてエレガントに
NEWSポストセブン