習近平政権のイデオロギーをかたどったオブジェ
「共産党人」アピールが最も濃厚なのは公園の南側だ。『共産党宣言』をかたどった大理石があるスペースは、入党の宣誓式会場を模したもの。児童アニメ調にディフォルメされた人民解放軍兵士の巨大な人形4体は、親子連れやカップルの間で格好の撮影スポットだ。植え込みには抗日戦争(日中戦争)の勝利を祝う標語が掲げられている。
長征(1930年代に国民党軍に追われた紅軍の大移動)の経路がでかでかと床に描かれた広場では、地域の子どもたちが一心不乱に鬼ごっこに興じていた。幼児連れの母親の一人(30代)はこう話す。
「私は政治に関心はないです。でも、息子が公園で遊ぶことで国家の歴史を勉強できるのは、よいことだと思う」
実のところ、武漢市内では今年に入り、こうした市民公園の「政治化」が続々と進んでいる。例えば1950年代に市内に開設された紫陽湖公園は「愛国主義」を、同じく洪山公園は習政権のスローガン「法治」をテーマにそれぞれリニューアル。実際に敷地内を散策してみると、党のイデオロギーを宣伝する看板が雨後のタケノコさながらに乱立していた。
「バカバカしい。税金の無駄遣いもいいところだ」
「市民の生活空間に政治的なプロパガンダを持ち込むのは、往年の文化大革命(文革)を連想するので不愉快だ」
一連の政策には、ネット世論を中心に苦言を呈する動きも根強い。だが、現地当局は批判の声もどこ吹く風だ。地元紙『長江日報』によれば、武漢市内では他にも「中国夢」「中華優秀伝統文化」などを主題にした公園9か所の新規開設や改装の計画が進んでいるという。
※SAPIO2016年1月号