スポーツ

片山右京率いる国内最強自転車チーム 世界への挑戦【前編】

本拠地・相模湖周辺でトレーニングする「チーム右京」のメンバー

「僕はいつも、大言壮語から始めて一番高い目標を目指していく。F1のときもそうでした。主戦場は世界なんだから、その世界ナンバー1に向かって走って行こうよ、と」──F1ドライバーとして6シーズン、世界を相手に戦ってきた片山右京(52)はいま、自転車のロードレースに全霊を傾けている。

 監督として率いる「チーム右京」は国内の「Jプロツアー」で圧倒的な強さを見せ、今年は団体総合優勝を果たした。個人でもエースの畑中勇介が優勝、団体&個人の二冠に輝いている。

 目指すは、世界最高峰の「ツール・ド・フランス」。22チームが7月の23日間フランス国内を走り抜ける過酷なレースだ。190か国以上でテレビ放映され、視聴者は35億人にのぼる。期間中、沿道には1500万人もの観客が押しかけるビッグ・イベントだ。

 もちろん「ツール」に名乗りをあげることは容易でない。海外公認レースでの勝利、チーム経営の健全性などいくつもの条件をクリアしなければならないのだ。100年以上続くこの大会に、日本のチームが出場したことは一度としてない。ゆえに、右京の掲げた目標は、ときに酔狂だと揶揄される。

 右京が「チーム右京」を立ち上げたのは2011年。国内外のロードレーサー10数名に声をかけ、結成した。右京自身は、本格的に登山に取り組み始めたのと同じ頃から自転車に乗り出している。

「エベレストをはじめ、8000m級の山に無酸素で挑みたくて、心肺機能を高めるために始めたんです。いま、F1など多くの競技のアスリートが自転車を使って有酸素系トレーニングをしています。関節や腰に負担をかけずに、心臓と肺だけを鍛えられる。最初は鍛えるための手段だったのに、乗るたびに自転車の奥深さに気づかされ、さらに最高のチームスポーツであると理解してからは、完全にハマってしまったんです」

 以来、右京は、登山と並行してロードレースにも参加し始め、2010年には「もてぎサイクルモードエコクラシック」の3時間エンデューロで優勝するなど、自転車の世界でも戦績を残していく。

 一方、ロードレース界に身を置いてみると、選手たちの置かれている環境が不安定だということもわかってくる。自らチーム運営に乗り出したのは、そんな場所に新風を吹き込みたいという思いもあったからだ。

◆あの事故から始まった「愛と懺悔」の日々

 片山右京が本格的に自動車レースを始めたのは、1983年のことだ。その後、フランスでの武者修行などを経て、1992年にF1デビュー。1997年にF1を退いてからは、「スーパーGT」の監督を務めながら、子供の頃から親しんできた登山にも本格的に挑戦し始める。01年には、ヒマラヤ山脈のチョオーユー(8201m)の無酸素登山に成功。以来、エベレストに挑み、マナスル(8163m)にも登頂した。

 しかし、登山家としての顔が定着し始めた2009年12月、悲劇は起きる。南極にあるヴィンソン・マシフ(4892m)遠征の訓練のため登った冬の富士山で遭難し、自身の会社の社員2人を失ってしまうのだ。1人は、長きにわたって右京を支えてきた盟友でもあった。

「マナスルで雪崩にあって、一緒に抱き合って、長い朝を待ったりした友達だった。すべてを一緒にやってきた僕の仕事の相棒でもありました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン