周知の通り、先の戦争で日本と戦った相手とは主に国民党軍であり、現在の共産党ではない。よって現在の中国に抗日戦勝利を語る資格はない。しかし、国民党が樹立した台湾を併合することで、中国共産党は正当性を主張するだろう。そうなると今後さらに積極的に、独自の歴史認識を世界に向けて発信し、日本の立場を脅かすおそれが生じる。
この首脳会談に至るまでに、伏線はあった。2015年7月に習政権は、内モンゴルで台湾総統府を精密に模した建物を造り、人民解放軍の模擬演習を行っている。その2か月後に抗日戦勝パレード、さらにその2か月後に首脳会談だ。急速な台湾シフトともとれる中国および台湾の動向の背景には何があるのか。
破綻寸前の経済、権力闘争の続く政治面は言うに及ばず、中国国内の社会不安と政府への不満はピークを迎えている。政権崩壊の危機がしのびよる習近平にとって、中台統一は延命策のひとつになり得る。焦る習近平が馬英九を抱き込み、密約を交わしたとしてもおかしくはない。
一方の台湾の馬英九政権は発足以来徐々に「中国一辺倒」の姿勢を鮮明にし、まずは経済面での中台交流を活発化させた。2014年にはついに、それまで台湾の輸入額を占める割合が最大だった日本を抜いて、対中輸入額が最大になる。メディアの多くは中国資本のスポンサーがつき、台湾国内の報道で中国批判は抑えられがちになった。
しかし対中依存を増したために、台湾は中国経済の失速とともに打撃を被り、民心はすでに馬英九から離れ、支持率は10%台へと落ち込んだ。2014年11月の統一地方選挙で国民党は大敗、馬英九は国民党主席を引責辞任し、現在党内での影響力もほぼ無いとされる。国内と党内に味方のいない馬英九にとって中国に近づくことが一縷の望みなのだ。
※SAPIO2016年1月号