炊き出しに参加したいというのは、正義感でも社会貢献意識でもない。そんな立派な動機ではなく、いつか自分が路上生活を余儀なくされたとき、それでも絶望せずに生きていける世界があるというリアリティも欲しいからである。この感覚は、歳を重ねるほど強まっている。現実がどんなものか分かってくるほどに、自分の非力さも実感させられるのである。
仕事がまったくなくなった時のために、せっせと貯金はしてきたが、いつ自分の気が迷って巨額の負債を抱えないとも限らない。家族とのつながりを疑うわけではないけれど、いざという時、頼りにしたいから家族生活を営んでいるわけじゃない。その発想になった瞬間、それは病理的な家族関係に変わると私は考える。根っこの根っこは各自独立独歩なのだ。友人関係も、当然、そうだ。
こうした人生観や家族観を他人に強いるつもりはまったくないが、もしものときのサバイバル方法を知っておいて損はない。そのサバイバル方法は、思想信条を問わないシンプルなものばかりだ。例えば、『路上脱出ガイド』東京23区編のもくじはこうなっている。
1. 路上に出てしまったとき
1 食べものがないとき
2 体調がわるいとき
3 相談したいとき
4 民間で支援を行っている団体
5 行政の支援
2. 路上から抜け出したいとき.
1 生活に困ったときに使えるサービス
2 仕事を探したいとき
3 生活保護の申請について
4 今すぐ仕事をしたいとき
5 スポーツや文化の活動
3. 路上に出ないために
1 住まい・労働など分野別の相談先一覧
2 法律相談が必要なとき
3 その他の相談をしたいとき
各ページには説教めいた文言はもちろん、励ましの言葉のようなものも一切ない。無味乾燥というわけではないが、客観的な情報提供に徹している。もしものときに頼れる存在の場所と連絡先、相談方法とその仕組みが詰めこまれている。また、ホームレス状態にある人たちも文化的に生きられるよう、東京23区編には英語クラブやホームレスサッカー、路上文学賞の案内もある。じっくり読み進めると、「もしも……が来ても、きっと大丈夫」という安心を私は少し得ることができた。
この『路上脱出ガイド』は家と仕事がある人も、1冊お守りとしてお勧めだ。東京、福岡、名古屋、札幌、熊本の各方面の在住者は、PDFをダウンロードさせてもらい、携帯端末に入れるなり、印刷なりしておくが吉だろう。
私は、自分用の他に、とりあえず5冊ぶん印刷してクリップで止め、小冊子ふうにしてみた。それらを明日の夜中にでも街中にリリースしようと思う。ホームレスやネットカフェ難民も、事情や心情は人ぞれぞれである。失礼になるかもしれないので直接手渡しはしない。彼らが通りそうな道の電柱にひっかけたり、使用しそうな公衆トイレに置いたり……まあ、具体的なやり方はローカルルールにのっとって、だ。