国際情報

日本が見習うべきモサド長官の言葉「007は幼稚園児の遊び」

 世界中がテロの脅威にさらされる中、日本でも首相の肝いりで「日本版CIA」構想などが検討されているが、作家の落合信彦氏は「諜報の世界は“スパイごっこ”ではない」と釘をさす。同氏はイスラエルのモサドなども含め、世界の諜報機関の人々とこれまでに何度も会ってきた。

 * * *
 日本は一刻も早く諜報機関を作らなければならない。私は30年以上も前から、そう指摘してきた。

 諜報機関は一朝一夕にできるものではない。内閣情報調査室や警察の公安、外務省で情報活動に関わる人材を集めてみても、CIAやイスラエルのモサドのようにはならないのだ。

「ミスター・モサド」と呼ばれた2代目長官、イサー・ハレルにかつてインタビューした時のことだ。私が、ハレルに対し冗談交じりで「ショーン・コネリーの007はどう思いますか」と話しかけると、彼はピクリとも笑わずにこう答えた。

「私の部下たちがやっている仕事と比べると、007なんて幼稚園児の遊びのようなものだ」

 現実の諜報の世界は、「スパイごっこ」ではない。時には生命を懸けたミッションとなる。ハレルは、モサドにふさわしい人物像について聞くと、こう語った。

「自分から志願してくるような者はダメだ。ジェームズ・ボンドに憧れてモサドに入りたいという者は、仮に敵に捕まって厳しい拷問を受けたら、あっという間に吐いてしまう」

「まず必要なのは、人間としての尊厳と正直さ、そして何より愛国の心だ」

 第一線のスパイは、「拷問の訓練」も受けている。どこをどう責めると、一番人間は痛みを感じるのか。日本人の中で、国のためにそんな訓練を受ける覚悟がある者がいるとは思えない。

 シリアにモサドのスパイとして潜入して多くの政府高官と付き合い、シリア国防相になる直前で逮捕されたエリ・コーエンは、全身をカミソリで切り刻まれるなど酷い拷問を受けた。

 それでもエリは、「自分が死ねば、イスラエルは生き延びる」と考えていたのだろう。生命を懸けた愛国心である。さすが20世紀最高のスパイだ。

 今の日本政府は「愛国心を持て」と言っているが、そんな掛け声で彼のような「本当の愛国心」を持てるわけがない。

 諜報機関を作り、人材を育てるには時間がかかる。だからこそ一刻も早く立ち上がらなければ、この国の未来は今以上に暗黒の淵に立たされるだろう。

※SAPIO2015年2月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

紀子さま(時事通信フォト)
上皇ご夫妻とあわやニアミス! 紀子さま「隠密行動」の京都路でなぜか「見られなかったもの」
NEWSポストセブン
一門はどうなるのか(左から香川、團子、猿翁、猿之助、段四郎。2011年撮影/共同通信社)
市川猿之助、両親が飲んだ向精神薬に関する謎 葬儀は従兄弟・香川照之が仕切り役を担う可能性も
週刊ポスト
市議会で議長をつとめていた父・正道氏と青木容疑者
《長野立てこもり》父が語った「ウチの農園主になってくれた」長男である容疑者の名前を冠した『マサノリ園』親子の関係性
NEWSポストセブン
3年ぶりの民放連続ドラマ出演が決まった俳優・織田裕二(時事通信フォト)
織田裕二「え、主演じゃない?」「トレンディ俳優の終焉?」30年ぶりに脇役を快諾した深い背景
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員(時事通信フォト)
山口組機関紙にみる恒例行事「餅つき」「誕生会」 写真なしで具体的な報告がなくなった理由
NEWSポストセブン
佐々木朗希
佐々木朗希「登板回避」決めた恩師 母校に戻り指導の日々「可能性を持つ選手は他にもたくさんいる」
NEWSポストセブン
長野射撃場(SNSより)と高校時代の青木容疑者
《長野立てこもり4人死亡》「ガンマニアだったのかな」地元猟友会の元会長が目撃していた射撃場での青木政憲容疑者の姿 「眠り銃」の管理も課題に
NEWSポストセブン
帰宅ラッシュの駅に悲鳴が(六代目山口組の司忍組長/時事通信フォト)
【喫茶店で発砲、血の海に】町田・六代目山口組系組員射殺事件、事件直後の凄惨映像が出回る
NEWSポストセブン
花田虎上の元妻・花田美恵子さん(本人のインスタグラムより)
【激変の今】若乃花の元妻「元花田美恵子さん」激ヤセ、身長も縮み「顔が違う」インスタに驚きの声
NEWSポストセブン
両国国技館
逸ノ城グッズの特設コーナーが国技館の売店に! 5月場所が盛り上がるも在庫一掃セールが不調の理由
NEWSポストセブン
澤瀉屋の152年の歴史
市川猿之助が率いる「澤瀉屋」初代の破門スキャンダル以来、絶えぬトラブル 修羅道をひた走る152年の歴史
女性セブン
卒業アルバムにうつった青木容疑者
《長野立てこもり男》青木政憲容疑者(31)は「会話のキャッチボールが成り立たない人」近隣住民が抱いた「結婚式欠席」の違和感
NEWSポストセブン