◆バリウム中心でいいのか
内視鏡検査の普及とともに必要なのが、「胃がんリスク検診」の導入だと筆者は考えている。
胃がんの99%は、ピロリ菌が原因だ。加えて胃粘膜の萎縮が進むほど、胃がんが発生しやすい。そこで、ピロリ菌感染と胃粘膜の萎縮度を血液検査で判定したうえで、必要な人だけが内視鏡検査を受けるのが「胃がんリスク検診」だ。
神奈川県横須賀市では、バリウム検査で胃がん発見ゼロの年が相次ぎ、「胃がんリスク検診」に切り替えたところ、1年間で108人の胃がんが発見された。
一方、黒岩知事は「未病を治して、健康で長生きできる社会」を提唱している。「未病」とは、体の状態を「健康」と「病気」の二つに分けるのではなく、その間にグラデーションのように変化していく段階があると捉える考え方だ。「未病」を治すと、高い効果や医療費低減が可能になるという発想で、リスク検診の手法と合致しているように感じられる。
黒岩「リスク検診と『未病』は、考え方の方向性が同じです。『未病を治す』うえで一番大事なのは、まず自身の未病状態を把握すること。不安があれば自分で精密検査を選択していく自己管理が必要です。自分で判断し、選択していくということ。今、これがやっぱり必要なんじゃないでしょうか。
神奈川県は『未病=ME-BYO』のコンセプトを世界に向けて発信していますがこのMEには、自分という意味も込められているんです。自分の体のことを、医療機関に丸投げして“先生判断してください”では、超高齢化社会を乗り切ることはできません」
胃がんリスク検診なら各個人が自身のリスクを把握できる。意識が高まり、低迷が続く受診率の向上につながる可能性もある。
だが、厚労省は死亡率減少効果のエビデンスが不足している等の理由で、リスク検診を指針に加えていない。神奈川県がそこに風穴を開けることはできないか。
黒岩「胃がん検診は過渡期にあります。エビデンスを取った上での胃がんリスク検診と内視鏡検査の方向に加速していくのがいいと思っている。そのためには人材確保、体制づくりが必要です」
黒岩知事は拙著『バリウム検査は危ない』を読んで、現在のバリウム検査中心の胃がん検診のあり方について、担当部局に検討を指示したという。
神奈川から胃がん検診の改革が始まることを強く期待したい。
※週刊ポスト2016年1月29日号