そんないくつかの違和感があって、まだ語られていない「本当の小倉昌男」について知りたいと思うようになり、少しずつ取材を始めたのが2013年の終わり頃でした。
カギは小倉氏が自著などで触れていない、個人的な生き方に関わる部分、信念や信仰、家族などの関係するところにあるのではないかと考えていましたが、取材を進めるにつれ、その想像は確信へと変わっていきました。
宅急便事業の鮮烈な成功の陰で、小倉氏は家庭ではナイーブで複雑な問題と向き合っていました。少し具体的にいえば、小倉氏の悩みの根っこにあったのが、妻と長女を巡る問題だったことが、少しずつわかっていきました。当然のことながら、取材は家族の内情などセンシティブな話題にも及びましたが、小倉氏の周囲にいた人たちから様々な協力が得られたことで、最終的には当初の「謎」が解け、すべてが1本の線につながりました。
ここではその詳細や結論を述べることはしませんが、すべての取材を終えた時、小倉氏が人知れず抱えていた葛藤や深い思いやりの心に触れたように思え、名経営者の違った一面に改めて敬意を抱きました。
小倉氏が向き合っていたのは、現代における多くの家族で共通しうる問題でした。だからこそ、これまで広く知られてきた”小倉昌男伝”とは全く違う今回の作品を、世に出す意味がある。そう確信することができたのです。