怖い話は夏だけのものではない。寒い冬だからこそ、さらに背筋が凍るような怪談をお送りする。20才の学生だという女性が、中学生の頃に体験した人形にまつわる不思議で怖いお話です。
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私が中学生の頃のことです。父の転勤に伴って、神戸に引っ越しました。父方の祖母が神戸にいたので、私たちは祖母の家に同居することにしました。
祖母の家は御影地区にありました。立派な門の先に庭が広がっていて、仮住まいとはいえ、母は大喜びでした。同じ敷地に、もう1軒家がありました。1人暮らしの祖母が家賃収入を得るために建てた家で、1家族3人が住んでいました。その家の小4の娘はマリといい、とても物欲の強い子でした。しょっちゅううちに来ては、「これ、欲しい」「あれ、いいなあ」と物をねだるのです。
私は人形をたくさん持っていました。もう中2で人形から卒業していたので、お気に入りのピエロの人形以外、全部マリにあげました。
「これは大事な人形だから、あげられない」
私はそう言いましたが、それからもマリはうちに来て、いかにも欲しそうにピエロの人形を見つめるのです。ある日、部屋からピエロの人形が消えました。マリの仕業に違いありませんが、その翌日もマリはうちに来て、平気な顔で物をねだるのです。
どうしようもなく腹が立ち、母に事情を話しました。ピエロの人形は、小学校の入学祝いに母に頼んで買ってもらったものだったのです。
「私がうまく話してみる」
母がどう話したのかはわかりませんが、人形は戻り、マリはうちに来なくなりました。正直、せいせいしましたが、数日して急に怖くなりました。マリが2階の窓からじっとこっちを見つめているのです。それも、昼となく夜となく。
もっと怖かったのは、ごみ置き場に、私があげた人形が捨てられていたことです。どの人形も、手足をばらばらにされ、胴体と顔だけになっていました。その数日後、郵便受けに別の人形が入っていました。それも私があげたものです。人形は片目をくり抜かれ、奥にメモ用紙が押し込まれていました。
〈死ね。しぶちん(註:物や金を出し惜しみする人)〉──メモには乱暴な文字でそう書かれていました。