それから1人で寝るのが怖くなり、私は1階の和室で祖母と寝るようになりました。
ある夜、和室で寝ていると、キーンという金属音に目が覚めました。目を凝らすと1メートルほど先の畳の上で、小人が横たわっていました。その小人が身に着けている黒と黄色の衣装を見て、私は息が止まりそうになりました。あのピエロの人形でした。
白塗りのピエロはくるりとこちらに向き直ると、立ち上がって、跳ねるように私の方へ向かってきます。この人形は生きている──。
気味の悪い笑顔を見て、そう直感しました。逃げようとしましたが、全身が硬直し、うめき声すら出せません。両親は隣室にいて、ふすま越しに細い光が漏れていました。
「お母さん、助けて!」
私は声にならない声で叫びましたが、人形はすぐ目の前に迫ってきました。口を大きく開閉させ、今にも噛みついてきそうでした。目を逸らしたいのに瞬きさえできません。
「もうだめだ!」
そう思った瞬間、背後から射す光が大きくなりました。
「呼んだ?」
異変に気づいた母がふすまを開けてくれたのです。すると、体の硬直がとけ、人形は消えていました。
翌日、怖くなった私は、ピエロの人形を祖母からマリに渡してもらいました。そしてその後すぐ、私は東京に戻りました。
あれから6年たった先週の日曜日、マリが事故で亡くなったと祖母から連絡がありました。マリには何があっても成仏してほしい、心からそう思いました。でないとまた、ピエロの人形が襲ってくる──。そう不安で仕方ないのです。
※女性セブン2016年2月11日号