ナヌムの家。韓国語で分かち合いを意味する
◆元慰安婦に会わなかった朴大統領の未熟
今回の「日韓合意」に関して私個人としては、わずかであっても何かの希望を見出したいとは思っていた。被害救済に外交が無力であっていいはずがない。ただし当事者不在の単なる政治決着ならば、「受け入れられない」との声が出るのも当然だ。
慰安婦問題を取材してきた韓国の大手紙記者は「個人的には最善とは言えなくとも次善ではある」と合意を評価しつつ、次のように述べる。
「実は韓国社会でも長きにわたり、慰安婦問題への関心は高くなかった。だからこそ、ハルモニたちへの説明抜きでも外交解決できると、朴槿恵大統領は踏んだのではないか」
合意直後の世論は評価の可否について半々に分かれていた。が、年内合意を急いだことへの“拙速さ”が伝えられるようになってからは否定的な意見が目立つようになった。元慰安婦に事前説明がなかったことへの批判は強かった。
「そのことで朴大統領は“冷たい”といったイメージを与えてしまった。これが金大中(キムデジュン)や盧武鉉(ノムヒョン)ならば、事前に元慰安婦たちと会い、しっかり抱きしめてから交渉に向かったかもしれません。朴大統領の政治家としての未熟さが出てしまった」(同)
そこに桜田義孝議員の「(慰安婦は)職業としての娼婦だ。ビジネスだ」といった発言が報じられる。私はこんな光景を目にした。
1月14日の夕方である。ソウル市内の居酒屋で食事しているとき、ちょうど店内のテレビが「桜田発言」を緊急ニュースとして流した。その瞬間、それまで穏やかに談笑しながらチャミスル(焼酎)を飲んでいた中年男性のグループが、急に大声を上げた。
「ムヒョ(無効)!」
日韓合意の「無効」を訴えていたのだ。声の主である自営業者(50歳)は「日本政府の人間からこんな発言が飛び出すようじゃダメだ。口先だけの合意なら意味がない」と苦々しい表情を浮かべた。
果たして、朴大統領はこうした韓国の世論に反し、合意内容を履行できるのだろうか。