「水曜集会」に出席した元慰安婦たち


◆「こんなに虚しい結果になるとは」

 1月13日、私は日本大使館前の「水曜集会」を取材した。慰安婦問題に取り組んでいる「挺身隊問題対策協議会」(挺対協)など市民団体が、毎週水曜日におこなっている定例集会である。雪がちらつく厳寒にもかかわらず、大使館前には約千人もの人が集まった。「合意は無効だ」と記されたプラカードが林立する。

 集会には6人の元慰安婦が参加した。そのひとり、キム・ボクトンさん(89歳)がマイクを手にして声を張り上げる。

「私たちの意見も聞かずに進めた合意に絶対反対です。こんなに虚しい結果になるとは思ってなかった」

 肌を突き刺すような冷たいビル風を受けて、作家のユン・ジョンモさんは寒さに震えながら元慰安婦の声に耳を傾けていた。慰安婦を題材とした作品で知られるユンさんは「失望している。河野談話から少しも進んでいない」と険しい表情を見せた。

 集会には中高生ら若い世代の姿が目立った。閉会すると、大使館前に設置された慰安婦の少女像の周りで、大学生たちが毛布をかぶりながら、「泊まり込み」の態勢に入った。万が一の強制撤去に備え、交代制で像を守っているのだという。

 大学生のチョン・ホギョン君(23歳)は「慰安婦の受けた苦痛を記憶として残さないといけない」と日本語で説明した。彼は日本の伝統文化に興味を持ち、高校時代から日本語を習っている。3月には日本を訪ね、各地の「ひなまつり」を見て回る計画を立てているという。そんな“知日派”の彼であっても、少女像の撤去を合意の条件とするような動きは「許せない」と強調する。

 こうした合意反対世論を「当然だ」と訴えるのはソウル大法科大学院のヤン・ヒョナ教授だ。

「日本政府は“責任を痛感”としているだけで、国家責任をあいまいな表現で回避している。韓国政府も当事者を除外したうえで、これを追認してしまった」

 同じく中央大のイ・ナヨン教授(社会学)も「歴史の教訓といった視点が欠落している。“不可逆的”という言葉に象徴されるように、問題の終結だけを急いだものだ」と合意を批判する。

 一方、学者のなかには合意を評価する声も少なくない。たとえば、ニューライト(新保守派)として知られるソウル大のイ・ヨンフン教授は「いつまで問題を長引かせるのか」と苛立ちを隠さない。

「かつて日本を破滅に追いやった民族主義が、いまは韓国で蘇っている。民族主義に染まった一部の運動団体によって、無理やりに世論が形成されている。もともと韓国人の多くは慰安婦問題に興味がなかったのですから」

 また、日本政界に知己も多い日本研究者も、「みんな本当は慰安婦問題に疲れている。問われれば慰安婦に同情するが、本音では、いつまでもこだわる必要はないと思っている」と話す。

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン