芸能

仲里依紗 NHK『逃げる女』で「怪優」の評価得る

『逃げる女』公式HPより

 視聴率2パーセントのドラマの中にも光るものはある。それらをどう見極めるかがドラマウォッチャーの楽しみでもある。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 高視聴率、旬の役者、ユニークな仕掛け。ドラマを記事にとりあげる条件は、いろいろあるだろう。しかし、そんな条件があろうがなかろうが、どうしても触れておかなくてはいけないドラマというものが生まれる時がある。

 スリルな予感は第1回目から漂っていた。そして先週土曜日の5回目を見ていた時。画面から風圧のようなものを感じて、びっくりしてのけぞった。鳥肌が立った。

『逃げる女』(NHK土曜22時)で美緒という役を演じる仲里依紗。その演技が、「演技」という枠をぶっ壊して画面からはみ出してきたのだ。

 手足を振り回し、エネルギーを炸裂させ、顔を紅潮させ、叫ぶ。叩く。銀色に染めた髪で吠える姿は、まるで街のオオカミ? 視聴者の部屋まで届いてくるような、暴力的な空気振動。ドラマの中でこれほど身体の力を感じさせた女優がいただろうか?

『逃げる女』は、視聴率2%台と数字から見れば話題にもならないドラマ。しかしそんな現実と作品の質や価値とはまったく関係ない。

 役者、脚本、演出。その三本柱から見て、日本のドラマ史上に新たなページを書き加える力を持った作品がいよいよ登場したと実感させてくれる。

 脚本はベテラン・鎌田敏夫氏のオリジナル。えん罪で刑務所に8年入っていた西脇梨江子(水野美紀)が出所し、自分を裏切った親友・あずみ(田畑智子)を探しに旅に出る。

 途上で見知らぬ奇妙な女・美緒(仲里依紗)と出会い、景色も人間関係も刻々と変化していく。そんな「ロードムービードラマ」だ。

 この脚本家は、凡庸な謎解きに興味がない。「事件」はあくまで「人間の孤独」を描き出すための素材であり、ドラマ作りの道具にすぎないらしい。

「社会にじわーっと漂う不安を描きたいです。不安という決して楽しくないものを、エンターテインメントとして人を楽しませながら描くのは離れ業。刑事モノや医者モノのドラマがやたらと多くなったのは、楽しませながら不安を描く一番簡単な道だからだと思います。それ以外の方法で、不安という時代の産物を描いていく方法がないか、いま、模索しているところです」(日本経済新聞2015年1月1日)

 鎌田氏は昨年のインタビューでそう語っていた。不安という時代の産物を描く「方法」が結実した。それがまさにこのドラマなのだ。

 梨江子を演じる水野美紀は、まるでこのドラマのために体を鍛えてきたのかと思いたくなるくらい、走る。誰かを追いかけて走る。逃げるように走る。

 キレたアスリートのような体から、孤独と高慢、頼りなさとかたくなさ、強さと弱さといった両極端が滲み出てくるから面白い。

 その利江子にウソの自供をさせてしまった刑事・佐久間(遠藤憲一)もまた、痛みを抱えながら後を追って走る。佐久間のトツトツとした語りが、脚本の中に込められた「孤独」を伝える。言葉は静かに響きわたり、心に染みる。

「人は、それぞれ違うルールで生きている、ということをつい忘れてしまう。人を信じるというのは、相手が自分と同じルールで生きていることを期待する、空しい希望なのかもしれない……」と、エンケンの低音が響く。ぶっきらぼうなナレーションによっていっそう、孤独は際立ち深まっていく。

関連記事

トピックス

報道陣の問いかけには無言を貫いた水原被告(時事通信フォト)
《2021年に悪事が集中》水原一平「大谷翔平が大幅昇給したタイミングで“闇堕ち”」の新疑惑 エンゼルス入団当初から狙っていた「相棒のドル箱口座」
NEWSポストセブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
雅子さまは免許証の更新を続けられてきたという(5月、栃木県。写真/JMPA)
【天皇ご一家のご静養】雅子さま、30年以上前の外務省時代に購入された愛車「カローラII」に天皇陛下と愛子さまを乗せてドライブ 普段は皇居内で管理
女性セブン
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
稽古まわし姿で土俵に上がる宮城野親方(時事通信フォト)
尾車親方の“電撃退職”で“元横綱・白鵬”宮城野親方の早期復帰が浮上 稽古まわし姿で土俵に立ち続けるその心中は
週刊ポスト
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト
東京駅17番ホームで「Zポーズ」で出発を宣言する“百田車掌”。隣のホームには、「目撃すると幸運が訪れる」という「ドクターイエロー」が停車。1か月に3回だけしか走行しないため、貴重な偶然に百田も大興奮!
「エビ反りジャンプをしてきてよかった」ももクロ・百田夏菜子、東海道新幹線の貸切車両『かっぱえびせん号』特別車掌に任命される
女性セブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
高橋一生と飯豊まりえ
《17歳差ゴールイン》高橋一生、飯豊まりえが結婚 「結婚願望ない」説を乗り越えた“特別な関係”
NEWSポストセブン
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
NEWSポストセブン