2003年度から始まったDNA鑑定は、シベリア抑留者のように1人ずつ埋葬されて埋葬者名簿もある場合など、個人が特定できる遺骨に限られていた。
今後は部隊記録などである程度戦没者が特定できる場合にもDNA鑑定を実施する。現在、厚労省が保管する遺骨は約8千100体に上る。
韓国の遺族団体は、2014年から厚労省に「DNA鑑定に韓国人遺族も加えてほしい」と要請を続けている。しかし厚労省は「朝鮮半島出身者と思われる遺骨があった場合は、外務省を通じて韓国政府と協議する」と、韓国人遺族を対象外とする立場だ。日韓両政府の方針が出るまで、官僚としては何も言えないという態度が見える。
遺族は韓国政府に対しても、日本政府に働き掛けるよう要請しているが、韓国外交部の回答は「韓半島出身の軍人・軍属の遺骨が発掘、返還されるよう、日本政府が責任感を持って誠意ある措置を取ることを期待している」にとどまり、日本に丸投げした形だ。
韓国政府の要請がない以上、日本政府としても動きづらい面はあるだろう。韓国の遺族団体「太平洋戦争被害者補償推進協議会」のスタッフは「慰安婦問題や強制連行訴訟などを抱える日韓外交に、これ以上新たな歴史問題を増やしたくないのだろう」と見る。
慰安婦問題で両政府が「妥結」しても、現実には火種として残ったままだ。それに加え、遺骨問題まで扱う気はないということか。
朝鮮人日本兵の遺骨が、このまま両国で見捨てられていいはずがない。日本では遺骨法案の審議の行方を見守るしかないが、韓国では4月に控える総選挙に向け、国会議員は既に選挙モードで、国会でも議題に上がっていない。
戦地から戦死者の遺骨を持ち帰り遺族に返すことは、国家として当然の義務であり、「外交上の新たな火種」云々の問題ではない。戦時中は「日本人」として激戦地に向かい、戦後は「朝鮮人」として遠い地に眠る彼らの骨を持ち帰ることは、今も続く日韓の「戦後」を終わらせる道にもつながるはずだ。
※SAPIO2016年3月号