「認知症の診断や治療のうえでいちばん大事なのは症状の把握です。いつ頃からどんな症状がどれくらい出ているのか。今、どの程度の生活上の混乱があるのか。それらはドクターと患者さんの間だけでは話が進まず、家族が伝える必要があります。というのも、患者さんはドクターの前ではしっかりした対応をするので、認知症らしき症状が見当たらないこともあるんです」(杉山さん)
その結果、「認知症ではない」と診断されれば、それだけ治療の開始が遅くなることになってしまう。そうならないためには、家族が「半年ほど前から同じことを何十回も繰り返し言う」「通帳がいつもどこかになくなっている」といった具体的な症状やおかしな行動を、あらかじめメモに書いて渡しておくことがおすすめだ。
診察の時に本人の前で言うと「そんなことはない」と反発したり、「告げ口するな」と言ってけんかになりかねないから注意してほしい。
「患者さんもプライドを傷つけられますからね。家族ができるだけこれまでの経過や病歴を書いて事前に窓口に渡しておく。するとドクターは本人の前で細かく聞く必要がなくなりますから」(杉山さん)
医師が万が一、本人の前でそのメモを見ると、本人が気分を悪くするので、「本人には見せないでください」と書いておけばより安心だ。
杉山さんのクリニックでは、脳のCTで認知症かどうかを診断する。認知症とわかれば、その場で本人、家族の前で告知をすることも。
「告知の目的は、継続的に診療を続けられるかどうか。本当の事実を言えばいいかというと、それだけではないんです。その点、手術を受けるかどうかを迫られるがんの場合とは違います。だから、『もの忘れが普通の人より強くなってきたので、もっと進まないようにお薬をのんだほうがいいんじゃないでしょうか』などとぼくは言います。皆さん、もの忘れがあるという自覚はありますので、納得されますね」
※女性セブン2016年3月3日号