◆困難に立ち向かうことこそ一番楽しい
DeNAは12球団の中で唯一、CSに出場したことがない。だが、熱烈なファンが球団を支えている。DeNAが親会社になって以来、ホームゲームの観客動員数は毎年増え続け、伸び率は12球団一を記録する。
「我々はすべてのゲームでベストを尽くしてプレーするだけですが、ファンのために勝利することが最重要課題です。今年のスローガンは、『WE PLAY TO WIN』(勝つために戦う)。最後まで諦めずに戦い続け、最後に皆で一緒に喜びを分かち合いたい」
監督就任以来、選手たちに一貫して「野球を楽しもう」といい続けてきた。その理由は、日本人が「楽しむ」という言葉の意味を正しく理解していないと感じているからだ。
「『楽』という字は、日本語で『楽をする』という意味がありますね。だからなのか、心のどこかに楽をしたいという欲求があるように思う。しかし、本当の『楽しさ』というのは、一生懸命取り組んで最高の結果を出した時に味わう感動なのです。現役時代、私のパフォーマンスを多くのファンが面白いといってくれましたが、私自身は真摯に真面目に野球に取り組んだ結果の喜びの表現でした。うちの選手たちにも、その感覚を経験してほしいのです」
前任の中畑清監督は、よくも悪くも監督自身が目立つ存在だった。ラミレスも現役時代、「ゲッツ!」「ラミちゃん、ぺ!」などのパフォーマンスでファンを沸かせてきたことから、中畑野球の継承者として見る向きもある。だが、グラウンドの姿を見る限り大きな誤解であることがわかる。
「一番難しいのは、10年連続Bクラスという現実を前にして、選手たちが本気で自分を信じ、自分たちは勝てるのだと確信できることです。とても困難だと覚悟していますが、一番楽しいのは困難に立ち向かうことなのです」
今季こそ人気と実力を兼ね備えたチームとして球界を席巻するか。日本の野球と日本人を知り尽くす新人監督の手腕を期待したい。
◆アレックス・ラミレス/1974年生まれ。ベネズエラ出身。メジャーのインディアンス、パイレーツを経て2000年にヤクルトに入団。2003年、打率.333、40本塁打、124打点で打点王と本塁打王、最多安打のタイトルを獲得。巨人を経て、2013年に外国人選手初の2000本安打を達成。2014年、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスに打撃コーチ兼任の外野手として入団。2014年に現役を引退、2016年横浜DeNAベイスターズ監督に就任。
■取材・文/田中周治 撮影/スエイシナオヨシ
※週刊ポスト2016年3月11日号