「自分の細胞を移植し、現存する毛根を活性化させるので移植後に拒絶反応が生じるリスクが少ない。薄毛に関する医療としては医師が処方する飲むタイプの育毛剤もありますが、何度も飲む必要があった。
それに比べ、一度の施術で効果が持続すると期待されています。さらに既存の脱毛症治療薬は女性や若年層の服用が制限されているが、細胞移植ならば男女問わず利用できるというメリットもある」
レプリセル社はすでに欧州で初期段階の治験を行なっており、安全性を確認している。また、治験を施した16人のうち10人の髪の毛が6か月で5%以上増えたといい、増殖効果の立証も進んでいる。
従来の薄毛治療は育毛剤や経口治療薬のほか、後頭部などの毛を毛根ごと切除して違う部位に植え付ける「自毛植毛」が一般的だった。しかし、この手術を受けた50代男性はこんな言い方をする。
「中年になってから脱け毛と薄毛に悩み抜いた末、およそ100万円を投じて自毛植毛の外科手術を受けた。手術で髪の毛は増えました。それはよかったのですが、頭皮をはぎ取った部分には10cmくらい縫合の傷跡が残ってしまうので、見る人が見れば植毛したことがバレてしまう」
自家細胞移殖ならこうした悩みも解消されそうだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「直径5mm程度だけで済む細胞移植は患者の身体への負担を軽減でき、術後の傷跡もほとんど目立ちません。培養した細胞を注射するだけなので、自毛植毛より手術が簡単になり、医師の技量で結果が左右されにくいというメリットもあります」
加えて最大の魅力は毛を「増やす」効果が上がると期待されていることだ。これまでの自毛植毛は患者の毛髪を「移す」行為であり、必然的に本数に限りがあった。全体的に薄毛が進行している人は最悪の場合、「植毛不可」で涙を呑むこともあった。
「ところが細胞移植ならば直径5mm程度だけでも頭皮に健康な髪が残っていればいい。つまり、かなりのハゲでも大幅な“増殖”の希望を持てます。ゆえにこれまでとは異なる画期的な技術として世界中から注目されています」(同前)
レプリセル社は米国、豪州、欧州の企業とも提携し、各国が「増毛」研究に鎬を削っているという。資生堂はその「日本代表」というわけだ。
※週刊ポスト2016年3月18日号