「いかに生きるかという哲学は科学的ではないという批判もあり、日本国内の大学でほとんど教えられてこなかった。
それが今の日本で多くの人に支持されたのは、誰かの期待を満たすために生きるのではない、『自分が自分の人生を生きなければ誰が自分の人生を生きるのか』というアドラーの思想に共感した人が少なくなかったからでしょう。
自分の考えが間違いではなく、勇気を持って自らの人生を生きる決心を後押しされた気がすることが、支持された主な理由ではないかと考えています」
精神科医の和田秀樹氏はこう指摘する。
「フロイトのように原因を探す治療法よりも、アドラーのように物の見方を変える方が鬱になりにくいので、アドラー心理学を取り入れた認知療法が精神医学の分野でも盛んになっています。
いい大学を出ていい企業に就職すれば安泰という時代ではなくなった現代社会では、挫折したり、途中で失敗しても、別のやり方で目的に辿り着けばいいという考え方は受け入れやすいのでしょう」
和を重んじる日本人はとかく対人関係での悩みを持ちやすい。新たな一歩を踏み出したい人には、アドラー心理学は人生を変える処方箋になりそうだ。
※週刊ポスト2016年3月18日号