1960~1970年代、高度経済成長とともに核家族化が進むまでは、2世代、3世代同居の家庭は多かった。
“おじいちゃん、おばあちゃんの面倒は自宅で最期まで見るのが当然”“施設に入れるのはかわいそう”…いつしか日本にはそんな風潮が蔓延した。現在、厚労省は在宅医療・介護を推進し、安倍政権は3世代同居を推進する。少子高齢化や共働きの増加、親と別居する世帯の増加など家族の在り方が変わった今もその考えは根強い。
『「ペコロスの母」に学ぶ ボケて幸せな生き方』(小学館)の著者・岡野雄一さんは、「母を早い段階で介護施設に入れたのが、結果的にはよかった」と言う。
「親を施設に入れて人任せにするのは、なんとなく責任を放棄しているような、後ろめたい印象があります。でもそんなことはありません。利用できるものは利用し、介護する側がきちんと立っておかないといけない。介護疲れで親より先に倒れないよう、適切な時期に施設に面倒を見てもらうことは大事なことです。それに、女性を介護するのはまだできても、力のある男性を相手に介護するのは容易ではありません」
そこで、自宅にヘルパーを頼んだり、老人ホームなど介護施設に入居させたりすることになるが、その施設でも衝撃的な事件が起きてしまった。
川崎市の有料老人ホームで入居者3人が転落死していた事件で、先月、元職員の男性(23才)が殺人容疑で逮捕された。男性は過去に入居者の所持金を盗んだ窃盗容疑でも逮捕されていて、同施設の別の職員も暴行容疑で送検されている。
この事件をきっかけに、介護施設に対する不信感が一気に広がった。明らかになったのは “この施設が特別ではない”ということ。そこにあるのは、いつまた殺人が起きてもおかしくない悲惨な労働環境だ。
老人ホームに入れない待機老人の数は増え続け、特別養護老人ホームを待つ人だけでも52万人以上いるとされている。北海道で介護老人ホームを経営する51才の女性が言う。
「悩みや愚痴は朝までかかっても話しきれないくらいあります。暴力や暴言を吐く入居者さんにも笑顔で接し、夜中の何時に呼び出しコールが鳴っても、たとえそれがイタズラだとしても対応する。
セクハラを受けてご家族に注意しても、言いがかりだと逆に辞めさせられた同業者もいます。介護報酬が下がるなか、お給料も下げざるをえない状況ですが、そんなことをしたら誰も働かなくなってしまうからなんとかしようと頭を抱えています」
都内の介護職女性(42才)は、「一瞬手をあげそうになった経験がある」と話す。
「とにかく人が足りない。介護の仕事って、資格の種類によっては誰でも簡単にとれるから新しい人は入ってくるんだけど、仕事のキツさと給料の安さで続かない。認知症が進んできたシニアのかたからは暴力を振るわれたり、噛みつかれることもあるけど、こっちは絶対に手を出せません…。でもこっちだって人間ですからね。休みもろくにとれないのに、月給は15万円にも満たない。そんな状況じゃ働く人がいなくなるのもわかります」
※女性セブン2016年3月24日号