そして、社内公募、FA制ともに大きな障害となっているのが、社内の人間関係、すなわち上司・部下のつながりだ。
「優秀な部下を抱える上司は、公募やFAで他部署に異動されたらショックが大きく、自分のキャリアにも傷がつきかねないため、あらゆる手段で部下の“社内転職”を阻止しようとします。
多くの制度採用企業では直属の上司に知られないよう、土日に異動希望者の面接をするなど工夫し、基本的には内定を出した後に所属長に伝えるようにしていますが、それでも後の人間関係がギクシャクすることはあります。日本IBMのように公募社員に対する差別は禁止する――という条項をわざわざ社内規定に盛り込むところもあるくらいですからね」(同前)
さらに、有能な社員に対する“社内ヘッドハンティング”行為も横行している。大手機械メーカーの人事担当者が明かす。
「どうしても優秀な人材が欲しい部署の管理職が、あらかじめ目を付けた社員を居酒屋に呼び出し、『FA権を使ってウチを指名してくれたら必ず内定を出すよ』と、新卒の“青田買い”のように囲い込みをするケースもある」
結局、公募制度やFA権を使って希望部署に異動できたとしても、異動先で成果を上げられなければ、これまでの高評価もゼロになってしまう。しかし、溝上氏はこんな忠告をする。
「異動希望を出して自ら新しい仕事に挑戦するのは会社員にとって大きな賭けといえます。ただ、大企業といえども自分から積極的に動かない限り、給料はいつまでも変わらず、突然リストラに遭う可能性だってあります。そう考えると、社内公募制やFA制を使える条件をクリアしているなら、自分の専門スキルや能力をアピールして、日の当たるポジションを渡り歩くこともサラリーマンの重要なサバイバル術といえます」
ソニーが復活を期すエレクトロニクス業界では、苦境に喘ぐシャープや東芝の人材も溢れ出している。今後は、内部社員による職種や事業部間の異動だけでなく、優秀な外部人材との“FA交渉”も盛んに行われるようになるだろう。