スマホ普及で多くのビジネスチャンスが生まれている AP/AFLO
「無から有」を生み出すという意味の「ゼロイチ」「ゼロワン」という言葉が、ビジネスマンの間で注目されている。2016年2月号の本連載でも触れた「0から1を生み出す力」は、どのように身につければよいのか。この4月に『「0から1」の発想術』(小学館)を上梓する大前研一氏が、その要諦を解説する。
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日本人は、なかなか発想が「0から1」に飛ばない。その最大の原因は、日本の学校教育が“段階を踏んで教える”20世紀型だからである。つまり、日本の学校の先生たちは文部科学省の指導要領に従って0から0.1とか0.2にじわじわと進むことしか教えていない。だから、そもそも「0から1」にジャンプする方法がイメージできないのだ。
一方、スポーツや音楽の世界はそれが「見える化」されているので、有能な人材は「0から1」に飛躍することができる。たとえばスキージャンプ競技の場合なら、世界トップクラスの選手の助走や踏み切りや飛型がすべて見える。それをイメージしながらコーチの指導を受けて厳しいトレーニングを重ねることにより、19歳でワールドカップ3度目の個人総合優勝を果たした高梨沙羅さんのような選手が登場するのだ。
ところが、日本の場合は大学教育でさえも「見える化」されていない。発想を「0から1」に飛ばすために必要なのは「考える環境=出会いの場所」だ。
なぜ、アメリカのシリコンバレーやベイエリアから突出した起業家や急成長するベンチャー企業が次々に登場するのかと言えば、世界中からさまざまな人種、民族、国籍の若者が集まって出会い、「0から1」を生み出すビジネスについて考え、世界的に著名な大学教授たちも一緒になって侃侃諤諤の議論をしているからだ。
さらに、実際に企業が活躍している現場も目の当たりにできる。世界レベルの最先端の発想方法やビジネスモデルの回し方が「見える化」されているのだ。残念ながら、日本にそういう環境はない。
とはいえ、シリコンバレーやベイエリアにいなくても、「0から1」を生み出したいなら、自らを「考える環境」に置くことが大切だ。